『 王子様と白鳥の出会い 』 そのお城はとてもとても大きな、そして綺麗な湖のほとりにありました。綺麗な湖には白鳥もやってきます。 このお話はその白鳥と、お城の王子様との出会いから始まります……。 「む?」 お城のソースケ王子がお付きの者を二人引き連れていつものように白馬を駆らせて湖にやってきました。 湖には毎年やってくる白鳥がいます。それは何の変哲もない当たり前の光景でした。 ただ一つ、白鳥が冠をかぶっている事以外は……。 「あれは…しかし何故……」 「どうした、王子?」 共にやってきたお付きの一人、クルツが声をかけます。王子と年の差はそれほどなく、 また幼少の頃からの付き合いもあるため、二人の間に堅苦しい挨拶などありません。 それは一緒に来ているもう一人のお付き、オノデラも同じです。 「何かあったのか?」 「いや、対した事はないのだが…あの白鳥がな」 ソースケ王子の指さす方向に二人が目を向けると、確かに白鳥たちがいます。しかし………。 「何であの白鳥だけ冠かぶってんだ?」 どうやらソースケ王子の目の錯覚ではないようです。間違いなく白鳥が冠をかぶっていました。 「………」 あまりにも信じられない光景だからでしょうか。ソースケ王子はその白鳥から目が離せないでいました。 しかし先ほども言ったように幼少の頃から王子を知っているクルツには分かっていました。 「なんて目で見てんだよ。まるであの白鳥に恋に落ちたってカンジだぜ?」 「な…バカを言うな。ただの白鳥だぞっ!?」 「でもそのただの白鳥が何で冠なんてかぶってんスかねぇ?」 確かに不思議な光景である事には違いありませんが、ただ白鳥を眺めているだけで その答えが出てくるはずもありません。 それでもその白鳥を観察していると白鳥の方もこちらを観察しているかのように じっとこちらを見つめていました。 まるでソースケ王子たちの会話を聞いているかのように……。 するとクルツがとんでもない事を言い出しました。 「ならよぉ、捕まえてみればいいんだよ!」 「何?」 クルツのその一言にソースケ王子がクルツに振り向きます。 ですがすでにクルツは弓を構えていました。 「俺様の腕をもってすれば一発で……」 クルツの自信過剰でもなんでもなく、本当にクルツの弓の腕は天下一品なのです。 それは誰よりもソースケ王子が知っていました。 だからと言ってそんな理由で白鳥に弓を射ていいわけがありません。 彼ほどの腕がなくても弓を射て当たってしまえばその白鳥の命を奪う事になってしまうのですから。 「よせ…やめ…っ」 ソースケ王子が制止させるために声を張り上げたその時…急に辺りが暗くなり、 バサバサという騒がしい音が聞こえてきました。音の正体はフクロウです。 しかしやけに身体の大きい気味の悪いフクロウでした。 「うわ…何だよこの光は!?」 すると突然妙な光に包まれました。光はすぐにおさまりましたが、 その時にはもうフクロウの姿はなくなっていました。 野生のフクロウにしては不気味すぎる。とてもただのフクロウとは思えません。 もしかしたら調べる必要があるのかもしれない……。 そんな事をソースケ王子が考えていると、うしろでオノデラが取り乱しました。 「どうし…」 「ク、クルツさんが……」 オノデラの返事を聞くまでもありません。クルツの姿を見れば一目瞭然でした。 なんとクルツが弓を構えた姿のまま石になっていたのです。 石になってしまったクルツを運ぶ事はとても無理なので、仕方なく湖の畔に残したまま二人はお城に戻ってきました。 「もしかして…あの白鳥のせいなんじゃないっすかね…」 「……何故だ?」 「だってクルツさんはあの白鳥を狙ったせいで石になっただろ? たとえそうじゃなくてもあそこの近くにあった森は不吉で有名だからなぁ…白鳥の呪いだたりして…」 確かに原因はそうかもしれません。しかしソースケ王子は納得がいきませんでした。 「王子様」 しばし考え込んでいると、そこへ王妃に仕える侍女がやってきました。 「王妃様がお見えです」 どうやら王子の自室にわざわざマオ王妃が出向いてきたようです。 「母上。何かご用ですか?」 「相変わらず必要以上に口をきかない子だね。顔はいいってのに…愛想がなさすぎてもったいないわ」 いささか乱暴な口調ではありますが、これでも立派なこの国の王妃です。 「…………話はそれだけでしょうか?」 「まったく。一週間後には二十歳になるというのに…」 「そういえば…」 やれやれ。これでは王妃に相変わらず…と言われても無理ありません。 「すでに王が不在なこの国では一週間後には成人となるあんたが王となって この城の主とならなければならないでしょ」 二十歳で成人になるのは生きている人間ならばいつかは必ず迎える事。 しかしまさかそれを期に国を治めなければならないとなると、 いくら事前に分かっていた事であっても本人には重大な責任を課せられるようなものでしょう。 まあ、もっともこの王子様はそんな事すっかり忘れていたようですが……。 「それで明日舞踏会を開くわ。隣国から何人か姫を招待するから、その中から気に入った姫をダンスに誘いなさい」 「まさかそのダンスに誘った姫と結婚しろと?」 「そういう事」 「ですが俺はまだ…」 「あのね…王になるんだからそのためには傍らに妃が必要でしょうが。 それとも他に誰か心に決めた姫でもいるの?」 「いえ、そういうわけでは…」 「なら言うとおりにしなさい」 それだけ伝えると、王妃は部屋を出て行きました。部屋にはソースケ王子とオノデラの二人きり…。 ソースケ王子は呆然と立ちつくしていますが…国にとってはとてもおめでたい話です。 ですからオノデラはソースケ王子にこう声をかけました。 「あ、あの…おめでとうございます、王子」 ですがソースケ王子は素直に喜べないでいました。 「何がめでたい? 好きでもない女を妃に迎えなければならないというのに」 「けど、それが王子として生まれたお前の……」 「ああ分かっている…分かっているさ……」 ─────────────── さだめ。 一見、王子とは優雅なように見えますが…実は生まれた時から自由を束縛されているも同じなのです。 それはこのソースケ王子の境遇を思い出してもらえれば納得するでしょう。 もちろん本人もそれをよく理解しています。だからこそこうして苦悩もしているのです。 結局、王妃が部屋を出て行った直後よりも落ち込んでしまいました。 「オノデラ」 ですが、ずっと落ち込んでいるようなソースケ王子でもありません。 元々人よりも感情の起伏に乏しいソースケ王子です。好きでもない人との強制的な結婚… というよりは気を許せない人と結婚させられるという事の方が悩みの種のようです。 「湖に行ってくる」 「はあ? 今から?」 すでに陽は傾き、城から見える景色はすっかり夕陽色に染まっていました。 オノデラが素っ頓狂な声で驚いてしまうのも無理ありません。 「ああ。あの白鳥にもう一度会ってくる」 「会ってくるって…だってあの白鳥は呪いを……」 「俺にはあの白鳥のせいだとは思えない。 たとえそうだったとしても今度は頼んでクルツを元に戻してもらうだけだ」 「けど…っ」 「止めるな」 普段無口で意思表示のない人ほど、一度決めた事に突っ走るもので……。 これは王子様という立場でも同じなのでしょう。 オノデラの不安も何のその…ソースケ王子はすぐさま湖へと向かうべく準備を始めました。
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