夜の散歩


夏にけたたましく鳴いていたセミたちが、鈴虫たちにバトンタッチしてから数日…すっかり昼間の暑さも和らぎ、涼しくなってきた。
夜にもなると鈴虫の綺麗な鳴き声が響き渡っている。

「今日は月がよく見えるわねぇ〜…。」

ベランダに出てボーっと空を眺めていたかなめがぼそりと呟く。
空は雲一つなく、月もさることながら星もよく見えるのだ。

「うーん、よし。散歩に行こう。」

思い立ったが吉日…さっさと戸締まりをしてかなめは夜の散歩へと繰り出した。
時刻はもうすぐ9時。本来なら女子高生が出かけるような時間ではない。
もちろんかなめもそれは心得ているので、近くの川原までと決めていた。
目的地に着くと、そこは家よりももっとたくさんの鈴虫たちが鳴いていた。

「うん、ちょっとだけちょっとだけ…。」

そう言いながら適当なところに腰を下ろす。
もし彼がいたのならものすごい勢いで反対されていただろう。だが、その彼は今遠い南の島にいる。

「帰ってきても今日の事は言わない方がいいわよね…。」

怒る事間違いないだろう。
しかし、かなめがそんな事を考えていると突然突風が吹いた。
そしてその次にはまるでヘリコプターのプロペラ音まで聞こえてくる。
ものすごい風に顔をかばい、次に目を開けた時には目の前に見知った彼が立っていた。

「………こんなところでなにをしている?」
「へ…あ、いや…えっと、え?」

南の島にいるはずの彼が…どうやら今帰ってきたようだ。
いつもなら調布飛行場を使うのだが今日はこんな時間になってしまったのでこの川原まで送ってもらったらしい。

「それで、君はこんなところで、こんな時間になにをしているんだ?」

あからさまに怒っているような声色。さすがに隠す事が出来ないのでかなめは素直に散歩に来た事を告げた。

「……時間を考えてくれ…。もう2130時をまわっているではないか…。」
「だってぇ…。」

散歩したくなっちゃったんだからしょーがないじゃん。

さすがにそれは言えなかったが。

「せめて次は俺がいる時にしてくれ。」
「……はーい、了解しました。」

敬礼のまねごとをしてごまかす。そんなかなめを見てこれ以上強く言えない宗介は、本当にこれでいいのかと思う。
が、彼女の事だから二度と同じ事はしないだろうとも思うので、これ以上はなにも言わなかった。

「帰ろう。」
「うん。」

帰り道は仲良く手を繋いで帰りました。






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