「ウソ……………。」
クラスメイトの親友、常磐恭子から衝撃的出来事を告げられて唖然としているのは………。
我らがヒロイン、千鳥かなめ嬢である。
「ホントだってば〜。あたしもびっくりして思わず聞き返しちゃったもん。間違いなくそう言ってたよー。」
はてさて。
一体誰に、なにを言われたのやら。
『 やさしい言葉ときびしい言葉 』
放課後……かなめ嬢は今現在帰宅途中である。
一人ではない。相良宗介氏が一緒だ。クラスメイトで…ご近所の……。
またの肩書きを……………恋人。
今でこそ並んで歩くようになった。以前は宗介氏がかなめ嬢の三歩ほど後ろを歩くのが普通だった。
最近は手を繋いで歩いたりもするようになった。
しかし……………。
今、宗介氏はかなめ嬢の後ろを歩いている。
「……………。」
理由は一つ。かなめ嬢の機嫌がわるいからだ。
別になにか機嫌を損ねるようなことはしていない……はず。そう断言出来ないのは日頃の行いのせいであろう。
「ち、千鳥…俺の勘違いならいいのだが…その…なにか怒って……いる、のか……?」
さらに機嫌がわるくなる可能性があるとはいえ、正直に聞くのも愛情の現われかどうかは定かではない。
「自分の胸に聞きなさいよ。」
返事がすぐあるということは、まだそんなに怒ってはいないということ……。
かなめ嬢が本気で怒れば、口も聞いてもらえないのだ。
「すまない。心当たりがない。」
「………なんですって?」
「だから心当たりがないと言った。最近は靴箱の爆破も…手榴弾も…銃も使ってはいないはずだ。」
「……………。」
そこまで言い切った宗介氏を振り返って…かなめ嬢は教室での親友とのやり取りを思い出した。
「……………アイツが…そんなこと言ったの?」
「うん。なんか意味があって言ったのかな?でも他の理由なんて考えられないしねぇ……?」
「だから…そのまんまの意味なんでしょ。アイツめ……!!」
なにかを言おうとして言わないかなめ嬢も見て、宗介氏は気が気ではない。
しばらくして、大きなため息を一つつき、かなめ嬢の口から出てきた言葉は……。
「ソースケ。今日も夕飯うちで食べていくでしょ?」
「…あ、ああ……?」
「じゃあこれから買い出し。行こ。」
「??」
そしてかなめ嬢宅。
「……ち、千鳥……今日、もしくは明日なにかあるのか?」
「別にないわよ。」
「そ、そうか……?」
かなめ嬢の作る食事はもう何度も食べている。どんな料理でも美味しいのには違いないのだが……。
今日のはどうにも質素すぎるのだ。
ご飯にみそ汁…漬け物……。そしてめざしが一本。みそ汁も具はネギのみときた。
育ち盛りの健康な男児にはとても足りない食事である。
「ごちそうさまでした。」
「…ごちそうさま………。」
てきぱきと後かたづけをしてから、かなめ嬢はなぜかバスルームへと行ってしまった。
かなめ嬢がいなくなったのを確認して、宗介氏は…めずらしく机に突っ伏してしまう。
そしてバスルームでは……。
「……………ホントだ、少し増えてる……。でも、スカートがきつくなったとも思わないし…
この位の変動は仕方ないと思うんだけどなぁ。」
体重計に乗って…その数字とにらめっこをしているかなめ嬢がいました。
「え、相良くん…今なんて言った?」
「脂肪が少し増えたみたいだと言った。」
「それって…カナちゃんのこと?」
「肯定だ。」
とどのつまりは。
宗介氏がかなめ嬢は太ったと言いたいらしく、そう解釈した恭子嬢は……同じ女として…親友として…
それをかなめ嬢に知らせた、と言うことらしい。
「たしかに体重はたいして変わってないのに脂肪パーセントは増えたみたいだけど…
…こうなったら徹底的にダイエットして見返してやるんだから!!」
「そういうことか。」
「!?」
体重計に乗ったままガッツポーズをとっているかなめ嬢の背後に…突然現れる宗介氏。
かなめ嬢もさすがに飛び退いてしまう。
「ノ、ノックぐらいしなさいよ!」
「いや、少し開いていたので立ち聞きしていた。」
「もっと失礼よ!!」
「だが、おかげで君の機嫌のわるい理由がわかった。」
「だ、だからなんなのよ……。」
顔を赤くしながらも、誰のせいだと言わんばかりに言い返す。
そう…元はと言えば目の前にいる男の発言から始まったことなのだ。
「常磐から聞いたのだろう。脂肪が少し増えたみたいだと。
君は…少し増やした方がいいと思って言ったことだったのだが。」
「……どういう意味よ。」
かなめ嬢のスタイルはいい方だ。女子高生にしては特に。
それは細身の女性と言えることなのだが…それではどうにも脂肪がなさ過ぎる。
「その体型を維持したいと思う君の気持ちに反するようだが…それでは病気になりやすい。
なによりも食糧不足になったらまっさきに死ぬグループに入るだろう。」
「物騒なこと言わないでよっ!」
「その腕も…俺が少し力を入れれば簡単に折ることが出来てしまう。」
「なっ!?」
「もう少しぐらい…脂肪を増やしてもいいのではないのか?」
「……。」
最近…宗介氏はずっとかなめ嬢を見ていた。かなめ嬢は気が付かなかったみたいだが。
その意味するところはこういうことらしい。
「ようするに…心配して言ってくれたの?」
「そういうことだ。だが君が不快に思ったのなら謝罪する。すまなかった。」
「あ、いや…その………。」
最初は頭に来ていたかなめ嬢も…ちゃんとした理由を聞いてしまうと、なんと言っていいのかわからない。
結局は…かなめ嬢の独り相撲だったのだ。
「ありがと、心配してくれて。あんたの指摘は……まあ頭の隅にでも置いておくわ。」
「そうか。」
せっかくの心配も…言葉一つで相手を怒らせたり傷つけてしまうことになる。
どんな状況、場合でも…かける言葉には充分気を付けましょう……………。
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