『 遠出前にすること 』





「ふんふんふ〜ん♪



この日、かなめはやけに機嫌良く…リビングに足の踏み場もないほどある物を広げていた。



「ここもいいし…でもこっちも捨てがたいし……うーん、迷っちゃうなぁ〜。」



手にとって見ては置き、違うのも見るがやっぱり前のも気になって再び手に取る……それの繰り返しだった。



「千鳥…返事がないから勝手に上がらせてもら……すごい有様だな…。」

「ソースケ。」



今日は日曜日で、かなめに部屋に来るように言われていた宗介は
約束の時間きっかりにインターフォンを鳴らした。

しかし一向に返事はなく、ためしにドアノブを回してみると鍵は開いていたので勝手に入ってきたようである。



「ごめん…夢中になってて気が付かなかった。」

「そうだろうとは思った。それにしても…すごい量だな。こんなに持ってきていたのか。」

「うん。せっかくただも同然で行けるんだもの。どうせならいいところ行きたいじゃない?」

「まあ…そうだろうが……。」



気持ちはわからなくもないが…それでもこのリビングの状態を見れば
誰だって呆れるだろうと、宗介は思っていた。

あえて口には出さなかったが。



「それで、少しは絞れたのか?」

「え、うーん…まあね。えっとここかここか…あとここか…ここ……それとここ!」

「まだ五つもあるのか…。」

「だってぇ…。」

「常磐たちにも聞いたらどうだ?」

「あたしに任せるってさ。」



それでは今日一日経っても決まらないだろう…。せめて明日には旅行会社に行きたいと言うのに…。

そう……かなめがリビングで見ていたものは…旅行用のパンフレットだった。





結局宗介の意見もあって旅行先は決まった。

来月あたまの土日にクラスのみんな数人と旅行に行くことになったのだ。

その旅行先をこうやって決めていたわけである。

なぜかと言うとオノDが旅行券十万円分を福引きで当てたからである。

だったらみんなで行こう…ということになったのだ。



「んじゃ、ここに決まりね…でもやっぱり……。」

「………今度の旅行でなくてもいつか行こうと思えば行けるだろう?」

「なに言ってるのよ!行けたとしても今回と同じメンバーとは限らないでしょ!!」

「ではいつまでもこうやって悩んで申し込みが出来なくてもいいのか?」

「うぐ…。」



めずらしく宗介が有利にたっている。

しかし…宗介からしてみれば別に優越感などなにもありゃしないのだが。

未だに行き先が決まらず、それに付き合うのにいい加減疲れてきているためである。





そして翌日。

かなめが職員室に行っている間、宗介は旅行メンバーに行き先が決まったことを伝えていた。

しかし、どうやら問題が発生したらしい。



「つまり、常磐の都合がわるくなってしまって行けないと?」

「うん…どうしよう…カナちゃんすっごく楽しみにしてたのに……。」

「仕方ないだろう。常磐さえよければ君抜きで行くが…。」

「それはあたしも構わないんだけど…それじゃカナちゃんが納得しないでしょう?」



たしかに…と、昨日のかなめを思い出して宗介はそう思っていた。



「なんならいい方法があるぜ?」



そこに口を出してきたのは旅行券を当てた張本人…オノDこと小野寺である。



「なに、いい方法って?」

「旅行券は余裕あるんだぜ?だったらよぉ…。」










「あ、それ良い考え!うんそうしよう♪」

「いや…ちょっと待て…。」

「なにが待てだよ…これ以外に解決策なんてないぜ、相良?」



本当にそうだろうか?



「じゃあ、善は急げ!相良くんと、あとオノDも一緒に旅行会社に行ってきて!」

「おーけー。」

「ま、待て……。」



なにも言い返す間もなく、宗介は小野寺に連れられて行ってしまった。

ちょうど二人が行った直後にかなめが職員室から帰ってくる。



「あれ、ソースケは?」

「あ、カナちゃん。今ねオノDと一緒に旅行会社行ってもらったところ。」

「そうなの?あたしも行きたかったのに。」

「だって早い方がいいじゃない?」

「まあ、ね…。」



なにか企んでいるのだろうとは思ったが、オノDも一緒なら大丈夫だろうと…
特に気にも止めず、かなめは旅行当日を楽しみにしていた。

そう…なにも疑わずに……。





そして旅行当日。





「じょ、冗談じゃないわよ!!!」

「だが…事実だ。」



待ち合わせの駅まで来て、かなめがとんでもなく大声を上げていた。

そのかなめの横にいるのは宗介一人である。



「いくらキョーコの都合がわるくなったからって、なんであたしとソースケだけなのよ!?」

「みんなでの旅行を楽しみにしていたのだから常磐が行けなくなったら君ががっかりするだろうと言っていた。」

「そ、そりゃそうだけど…だったらまた都合の日を見つければ済むことでしょう?」

「あんなに楽しみにしていた君を見ていたんだ…申し訳ないと思ったのだろう。」

「だから、それでどーしてあたしとソースケだけなの?
 オノDとか風間くんとか…ミズキとか…他にもいるでしょ!?」

「ああ…それは……。」



今回の旅行ではメンバー全員で行くことは出来なくなった。だが、旅行券には余裕がある。

ならば行きたがっている者だけでも行けばいい。

そんな理由で今回の旅行は宗介とかなめだけになったらしい。

どう考えても理由はそれだけではないと思えないが。



「謀ったわね…。」

「なんか言ったか?」

「別に。」

「………そんなに嫌ならやめるか?」

「……やーよ。それこそもったいないじゃない。」



どうしても腑に落ちないものがあったが…とりあえず旅行に行くことにした。



「…………絶っっっっっっっっっっっっっっ対おみやげなんて買っていってやんないんだから…!」















固い決意を胸に。






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