『届かないメール』






「さてと・・・・・・これでOK・・・・っと。お待たせ、もう帰れるわよ」

日直だったかなめが学級日誌を書き終え目の前に座っている少年に声をかけた。
すると、かなめの目の前で携帯でなにやらコチコチと作業をしていた宗介が
その手を止めかなめに聞き返した。



「終わったのか?」

するとかなめは「うん」とうなずいた。



二人は同時に机の横にかけてある鞄を取りそれぞれ荷物を詰め込む。
その時だった、生徒の残り少ない放課後にもかかわらずまるで
この人物はまだ学校に残っているだろうとわかっているかのように呼び出しの放送が鳴った。


『2年B組 相良宗介君、至急担任の神楽坂のところまで来てください。繰り返します・・・・・』


その放送を耳にした宗介はおもむろに「なんだ?」という表情を浮かべる。
そしてかなめは案の定言った。

「あんた・・・・またなにかしたの?」

あんたって人は・・・・・と言葉を吐き捨てる。

「いや、見に覚えはない」
「本当に?」
「本当だ」
「じゃぁなに?」
「それは、俺が知りたい」

言って宗介はしぶしぶ席を立つ。
本当に身に覚えがなさそうだ。

「とにかく行ってくる」
「そうね・・・・・じゃ、ついでだしこれ先生に渡しといてくれる?」

かなめは日誌を宗介に差し出す。

「了解した」 

宗介は手に持っていたものを机の上におくとそれを受け取り言った。

「ところで、君はどうする?」
「どうするってあたし?あたしはもちろんここで待ってるわよ」
「そうか、すまない。なんなら先に帰っても・・・・・」

いいぞ、と言おうとしたときその言葉をかなめは遮る。

「帰らないわよ。あんただって待っててくれたんだし。
 それに今晩、夕飯食べて帰るんでしょ?あたしだけ帰っても意味無いじゃない。買い物もするんだし」
「そうか、では出来るだけ早く処理して戻ってくる」
「いいわよ、そんなことしなくても。とにかく早く、行ってきなさいよ」
「あぁ」

そして、宗介は足早に教室を出て職員室へと向かった。





「しかし、あいつなにしでかしたのかしら?」

教室に1人残されたかなめはポツリと言葉を吐き、
何か時間つぶしをすることは無いだろうかとごそごそを自分の鞄を探り出した。
と、その時だった。
目の前に置かれた宗介の鞄に視線を向けた。
いや、実際は宗介の鞄ではなく宗介の鞄の下からチラリと見えた彼の携帯電話だった。



「ったく・・・・・携帯忘れてってるじゃない。連絡来ても知らないわよ」

言って、かなめは何の気なしに鞄の下から携帯を取り出す。
そして、そのまま宗介の鞄の中に携帯を入れようと鞄を開ける。


――――― が


その時、かなめの心になんともいえない想いが駆け巡る。
まさか、自分の中にこんな感情が隠れているなど考えてもいなかったからだ。

かなめはじっと携帯を見つめしばらく考え込む。
動かないかと思えば今度はいきなり頭を左右に振り出した。

「ダメダメ、そんなこと絶対しちゃだめ。
 自分だってされたらイヤじゃない。自分がされていやな事はしちゃだめよ」

そうそう、そうよ。絶対しちゃだめ。
自分自信に言い聞かせ携帯を鞄の中へと入れる。

「そう、これでいいのよ。これで」

それからまるで気を紛らわすかのように自分の携帯を触りだした。
だがしかし、やはり気になるものは気になる。
チラチラと宗介の鞄を見ては自分の携帯に視線を戻しを何度か繰り返す。

だが、人間の欲望とは恐ろしいものでかなめは我慢しきれず
いつの間にか宗介の携帯を取り出しメールを見てしまっていた。





宗介の正確なのかそれは受信されたメールは相手ごと綺麗に分けられていた。
もちろん、仲間の名前もあればかなめの名前もある。友達の名前も。
コチコチとマオやクルツの部分を見てみるとたいしたことはない、
任務関係の手短な内容ばかりだった。
任務と書かれたところには宛名はテッサだったがこれも同じく任務ばかりだった。

「ふーん・・・・・・テッサからの個人メールは全然ないのね。驚いた」

確かに驚いた。
正直、一番気になっていたメールの送信者はテッサだったのだから。


「なーにも、気にすることなんてないじゃない」

かなめは、心底ほっとした。
だが、閉じようと思ったときふと気になる部分があった。

「なにこれ?」

それは『届かないメール』と書かれていた。


「届かないメールってエラーで返ってきたってこと?だったら捨てればいいのに」

よほど気になったのかかなめは何気にその部分を開けてみた。


だが、エラーにしてはおかしい。
タイトル部分がエラーではないからだ。

そこには『明日』『明後日』『16日は』
『夕飯』『カレーが食べたい』『今日』などと書かれていた。

「いったい、なんなのこれ?」

すごく気になったかなめは恐る恐るメールを開けてみた。

その瞬間、かなめの動きが止まったかと思うと表情が一気に真っ赤に染まって行った。
そこにある全てのメールを読み終えかなめはだまってメールを閉じた。



かなめはそのまま携帯を鞄に入れると宗介が戻ってくるのを待っていた。
外は少しずつ夕焼けに染まり、窓から入ってくる風は秋を感じさせていた。
その風を感じながらポツリと言葉を吐き出しす。

「あいつ・・・・・・なにやってんだか」

その表情は優しく微笑んでいた。







それからしばらくして教室へ戻ってきた宗介と一緒に
かなめはまるで何もなかったかのように買い物を済ませ帰宅した。




いつものように夕飯を用意し食べる二人。
だが、宗介が教室へ戻ってきてから明らかにかなめの口数は少なかった。
それを心配した宗介はかなめに聞く。

「なにかあったか?」
「え・・・・なにも」
「そうか・・・・ならいいが」

やはり会話が進まない。
その時、かなめが言った。

「あ・・・・教室で待ってたときにね、携帯なってたわよ。確認した?」
「そういえば・・・・・」

宗介はズボンと脱いだ上着のポケットを調べる。

「そこにはないわよ、鞄の中」
「そうか・・・・ってどうして知っている?」
「だって、あたしが入れたから」
「そうか」

そして、宗介は鞄から携帯を取り出す。
メールと確認しようと宗介が携帯を見る。
が、一瞬動きが止まる。


「・・・・・・・千鳥」
「なに?」
「ひとつ、聞いていいか」
「んんーーーーー??いいわよ」

宗介は息をのみ問いかける。

「携帯・・・・・見たか?」
「どうして?」
「ロックがしてない」
「そうねーしてなかったわね。だから、簡単に見れたわよ」

あっけらかんと答えるかなめに宗介はもう一度確認する。

「読んだか?」
「・・・・・読んだっていったらどうする?」
「何を・・・・読んだ」
「読んで困るようなものでもあった?」
「そ・・・それは・・・・・」

宗介の額にびっしりといやな汗が流れる。
かなめはそんな宗介をだまって見つめる。

見つめられた宗介の目はなぜかどこを見ていいかわからないような感じで泳ぎだす。
「ソースケ・・・・・ありがとうね」
「な・・・・何がだ」
「本当は毎回メール送ろうとしてくれたんだよね」
「いや・・・・それは・・・・・・」
「嬉しかったよ。そんないいっぱい書いてくれてるんなら
送ってくれればいいのに」

言われて宗介の顔が一気に真っ赤に染まる。

「いや・・・だから、それは・・・・・・・」

言い訳がしたいが言い訳できない。

「今度からはさ、ちゃんと送ってよ。
あたしに書いてくれたメール自分自身に送り返さないで
一言でも送ってよ。それだけで嬉しいから。
あたしだってちゃんと返事書くし。
それに、送ってくれたほうが宗介の様子が知れて嬉しい」
 「迷惑・・・ではないのか?」
 「迷惑なわけないでしょうが。
迷惑だったらアドレスはじめから教えないわよ」
 「そ・・・そうか」
  「そうよ」

それもそうだな。
宗介はそのときやっとメールというもののありがたさを実感した。
宗介の帰宅後かなめの携帯がなった。
何気に確認した送信者は宗介だった。

『今日はありがとう。また、よろしく頼む』

ただ、これだけのメール。 それでもかなめはすごく嬉しかった。
そして、かなめは宗介へと返事を返した。

『また、食べたいもの言って。作るから』



これがお互い交わしたはじめてのメール。


かなめのメールを確認した宗介は今までにはない嬉しさを感じていたのだった。


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