「〜♪」
気温も程よく涼しい、朝の登校時間。
珍しく……至極珍しく、宗介は鼻歌など歌いながら、通学路を闊歩していた。
その歌の内容がロシア民謡なのはさして問題ではない。むしろ、この状況自体が異常事態
……いや、むしろ緊急事態といっても良いかもしれない。
「カナちゃん……何かあったの……?」
「……私に聞かないで……」
その上機嫌風な宗介の後ろ、何か得体の知れないものでも見るかのような視線全開で、
彼の飼い主(?)かなめとその親友の恭子が歩を進めていた。
「というか、私も真っ先に聞いたのよ、『何かあったの?』って、そしたら……」
「そしたら?」
「『秘密だ』と、さわやかにたった一言」
かなめの言葉にそこの空気が固まる。もう、絶対零度とか言うくらいに。
「……なんか相良君らしかなる言動だよね……」
ははは……。と、乾いた笑いを浮かべながら恭子はどうにか返答する。
「あいつの秘密主義は今に始まったことじゃないけどね……あの雰囲気でそういわれたら……」
軽く身震いするかなめ。もう何だかひどい扱いであるが、
それが相良宗介という人物に対する正当な評価であるとも言ってもいい。
さて、はっきり言って気色の悪いこの上機嫌っぷりを説明するためには、数時間のときをさかのぼらなければいけない。
ニューヨーク。AM3:00
日本よりもはるかに治安の悪いこの街にて、今日も警察は奮闘していた。
月並みであるが、麻薬組織なんかもその対象である。
月明かりすら見えない、そのような深闇。
喧騒の耐えない街の中。そのはずれにて、喧騒すら届かないような場所でそれは決行された。
ほぼ無音のような移動。無駄のない精密機械のような統率の取れた動き。
攻撃は一瞬。
使われるたのは、最新かつ最高の銃器類。
加えて、なぜか全ての銃弾は無効化される。
為す術がないとはこのことだ。ほぼ数瞬の後に組織のメンバーはすべて壊滅した。
襲撃班は帰路に着く。
足並みをそろえて更新する様。力強く何者にも臆することはなかろう。
威風堂々。その言葉がまさに似合う……はずである、普通なら。
月明かりが晴れる。
犬なんだか何だか、よくわからない頭。ずんぐりとしたオバQ風の二頭身。くりくりと大きな丸い瞳。
明らかにおかしい。少なくともぬいぐるみで突撃はしないだろう。というか、
いかに愛らしくても30体近く無駄のない統率の取れた行進をされては、気持ち悪くて仕方がない。
「ふもっ! ふもふも!」
先頭にいた一体が勢いよく号令を下す。
部隊は一瞬で解散し、それぞれ夜の闇の中に散っていった。
「……夢か」
エンドマークが出ても良いほどの、なんとも切りのいい場面で目が覚める。
一応誤解の内容に記述しておくが、先ほどまでのNYの話は相良宗介個人の夢である。
のそのそと、ベッドの下から這い出て時刻を確認する。なんともタイミングがよく、登校するに最適の時間だ。
「なかなか良い内容だったな。吉夢かもしれん」
いそいそと支度をしながら、そう呟く宗介。今までの彼なら夢など気にはしないだろうが、
かなめに引っ張りまわされる学園生活と、度重なる古文の特訓の成果かそのようなものにも多少の理解を得てきている。
ちなみに、件の戦闘用ボン太くん。更なる改良を加え、旧知の武器商のつてで量産型を再販したところなのである。
前回の失敗がある分、今回の夢のように華々しく活躍する場面は、宗介の期待を大きくしている。
「さて、いこうか」
いつもどおりのように家を出るが、その顔は明らかに緩んでいた。
つまり、原因はあまりにもタイミングのよい夢なのである。
宗介自身、ボン太君のフォルムはかわいらしくて気に入っている。だからこそ、あきらめずに再版をしているわけだが。
カバンにボン太君のキーホルダーをつけるというほどの愛情は『いい夢は人に話さない』という与太話までもきっちり守らせているのであった。
その放課後のこと。
朝の機嫌はどこへやら。宗介は携帯片手に机にうなだれていた。
「何があったの?」
朝とまったく同じ質問は朝と同じ相手から投げかけられる。
そしてその返答も、また同じであった。
「……秘密だ」
ただ違うのは、今にも死んでしまいそうなその雰囲気と、その後に言葉が続いたことである。
「……というより、口に出すことで再認識するのがつらいのだ……」
「?」
結局のところ、何のことかかなめにはまったくわからなかった。
ただひとつ。変化という変化といえば、宗介の貯金が大きく目減りしていたらしい。
(終)
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