「全国ご当地極上品100選」 そう、表紙に大きく書かれた本を手にかなめがやってきたのは、宗介の住むセーフハウスだった。 様々な写真の載ったページを広げながら、あれやこれやと目を通している姿を見て、宗介が不思議そうに声をかける。 「それは何だ」 ソファーなどという洒落たもののない部屋で、かなめはクッションを床に敷いて座り、ちらっと彼の方を見てから、すぐに視線を紙上に戻す。 「カタログよ。お取寄せの」 「取寄せ?」 「たとえばコレだったら…」 彼女はあるページの一部を指差してみせる。 そこには、グツグツとおいしそうに煮込まれたもつ鍋の写真が載っていた。 ご存知のとおり、福岡は博多の絶品名物料理である。 「味付け済みのもつと、ねぎ、ニラ、それと麺がそれぞれ一人前×2セット入りで届くから、あとは鍋に水と材料を入れて煮込むだけ。 注文は電話か、この専用はがきで簡単にできるし、お金は代引か振込でOK」 「ほう」 「つまりこういうカタログさえあれば、わざわざ遠くまで自分で行かなくても、自宅にいながら日本中のおいしいものが手に入るってわけ」 便利でしょ?という彼女に、彼も納得した様子で。 「デリバリーみたいなものか」 「ま、そんなとこ。 ただ、宅配とか出前とかと違って、届くまでに時間がかかるけどね」 一通り説明を終えてから、かなめは再びページをめくる。 すると、ある一点に目が止まった。 最高級・神戸牛のヒレ肉を使ったビーフカレー4食セット。 老舗の有名レストランで調理された極上品で、写真だけでも思わず喉を鳴らしてしまうほどだ。 これはお店で直接食べるとすれば、相当な値段になるだろう。 もちろんレトルトなのだが、取寄せ品だからこそのリーズナブルな価格設定となっている。 かなめの料理の腕前なら、それなりにおいしいものは作れるのだが… 有名レストランのカリスマシェフ、つまりプロと比べれば、所詮は素人技である。なんせ、素材と手間のかけ方が違う。とても家庭で作れるカレーではない。 「こういうの、一度は食べてみたいわね〜… ね、ソースケはそう思わない?」 彼女は、カレーが好物な宗介に話を振る。 しかし、彼はそれをよく見もしないで、即座に答えた。 「俺はいい」 「ふぅん。あんたって欲がないのね」 「…いや?」 少し意外そうに、それも真顔で言い放った宗介の言葉は、しばしかなめを唖然とさせた。 「君のカレーを食べられることの方がよっぽど贅沢だと思うが」 「・・・・・・・・・・はい?」 彼がこうしたセリフを吐くのはたまにあることなので、それほど驚きはしないが、やはりまだ免疫ができていないらしく、彼女はすっとんきょうな声を出してしまった。 特に付き合い始めてからというもの、遠慮がなくなったのか、妙な自信がついたのか、それとも正直なのか、以前より積極的になったと思うのは気のせいだろうか。 徐々に顔が熱くなってくる。 「あ、そう。ソースケはいらないのね。 じゃあ、あたし一人だけ頼もうっかなー…」 「そ、それは…」 これ見よがしに言ってやると、軽く狼狽した様子を見せる。 そう言われてしまうと、少し惜しい気持ちになるのが人間というものである。 かなめは、しょうがないなぁ、といった表情で、ふっと笑った。 「今日の夕ご飯はカレーにしよっか。一緒に食べるでしょ?」 「あ、…ああ。もちろんだ」 安い肉しか入ってないけどね、と皮肉っぽく言うかなめに宗介は、それで充分だ、と返す。 というわけで、宗介もカレー作りを手伝って、二人で仲良く夕食を頂くことができた。 ―――――平和で幸せな何気ない一日――――― END ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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