かなめは隣で眠っている人物の頬を指先で優しく触れていた。
指先から伝わる温もりは夢ではなく現実のものでほんのりとかなめへ伝わってきた。

   『いつかはこうなる事を望んでいたのかもしれない。』

かなめはそう思っていた。



   『静かな雨』



それは昨晩の事だった。
かなめが眠りにつこうとベットに横たわろうとした瞬間、インターホンがなった。
不審に思いながらもおそるおそる扉の覗き穴を見ると外には見覚えある人物が立っていた。
かなめはあわてて鍵を開けドアを開いた。

「どうしたのこんな時間に。」

かなめは驚いたように宗介を部屋へと入れた。



それは久しぶりの再会だった。
あの事件が終わってから宗介はメリダ島へ戻り東京へ来る事もほとんどなくなっていた。
そのせいもあってか以前住んでいたセーフハウスもすでに手放していた。
そのため東京に来たときはホテルに泊まることが多かった。
それに、突然宗介がなんの連絡もなしに会いに来るという事などもってのほかだった。



「あんたどうしたのこんな時間に!しかもビッショリと濡れて・・・」

困ったように言いながらもかなめの顔はなんとなく笑っていた。

「すまない突然来てしまって。
つい数時間前まで任務をはたして来たのだが、帰りにここの上空近くを通ったので
頼んで下ろしてもらったんだ。君とももう随分会ってなかったからな。」

言いながら宗介は着ていた上着を脱いでいた。
その上着を受け取りながらかなめは
『風邪引いちゃいけないからシャワーでも浴びてきたら?着替えは出して置いとくから。』
そう、宗介をバスルームへと促した。

宗介がシャワーを浴びている間かなめはミルクを温めていた。
何かを作ろうと思ってもここ最近は自分一人分しか食事を作らなくなった事もあってか
冷蔵庫にはあまり買い置きをしていなかったからだ。

ミルクを温めながらかなめは窓の外を眺めていた。

「雨・・・か・・・・。」

つぶやいた瞬間バスルームから髪を拭きながら宗介が現れた。

「どうかしたか?」
「ううん、なんにも。ミルク温めたんだけど飲む?」
「あぁ。」

言われかなめはマグカップにミルクを注ぐと宗介に手渡し自分も隣へと座った。

「よかった。それ、ピッタリね。」

先ほど置いておいたTシャツとパンツを着ている宗介を見てかなめは満足そうにほほえんだ。
そんなかなめを見て宗介は自分が着ている服に視線を落とした。

「それね、随分前にあんたのために買っておいたのよ。
あんた、いつだって迷彩服とかばかりきゃない?
部屋にいるときくらいはラフなカッコしててもいいんじゃないかな?って思って。
でも、それ買った後ほとんどあんたここへは来なくなったからどうしようか困ってたところだったのよ。」
「そうか・・・すまない。」
「いいよ。あたしが勝手に買ってたんだから。それに今は役にたってるからね。」

かなめは嬉しそうに笑っていった。

「ところでさ。あんた、急に下ろしてもらったって言ったけど大丈夫なの?」
「なにがだ?」
「戻らなくてよ。メリダ島に。」
「あぁ・・・そうだな。」
「あぁ・・・ってったく・・・・テッサ、怒るんじゃない?
 いろいろと報告する事もあるだろうし・・・・・。今からでも帰ったら?遅くないと思うわよ?」

本当は側にいて欲しいと思ったがあえてかなめはそうは言わなかった。
それがかなめらしいところだ。
すると逆に宗介が思ってもいないことを言った。

「俺がここに居ると迷惑か?」
「え????」

かなめは驚いた。

「俺が、こんな時間にここへ来たのは迷惑だったか?と聞いている。」
「だ・・・誰もそんな事言ってないじゃない。
 ただ、あたしは急に勝手にここへ来て大丈夫か心配で言っただけじゃない。」
「では、迷惑ではないんだな?」
「あ・・・あたりまえじゃない・・・」

いつもにもまして宗介の表情があまりにも真剣でかなめは宗介から目をそらす事が出来なかった。

「あ・・・あのさ・・・・」
「なんだ?」
「えーーーーーっと・・・・・」

かなめはどうにかして今の空気を断ち切ろうとしていた。

「その・・・・・・・」
「どうした?」
「・・・・・そ、そう・・・連絡だけしとけば?うん。しといた方がいいよ。テッサに。」
「大丈夫だ。」
「え・・・でも・・・・・・」
「君が心配する事はない。下ろしてもらう前にちゃんと言ってある。ここへ行くと。」
「あ・・・・・そう・・・。あたしが心配する事はなかったんだ・・・・・」
「そうだな。」

なぜかわからないが部屋の中に緊張が走っていた。
いままで何度も何度もこうやって宗介と夜中に2人きりでいたことはあった。
なのに今日はいつもと空気が違っていた。



   ――――――静かな空間にただ雨の音だけが響いた。



「おかわり・・・いる?」

ミルクを飲み干している事に気が付いたかなめは手を差し伸べると言った。

「いや、もういい。ありがとう。」

宗介はマグカップをかなめへと渡した。
かなめは『うん』っとうなづくとマグカップを宗介から受け取った。
本当はいっぱい話したい事があるのになぜか言葉が浮かんでこなかった。

キッチンにマグカップを置くとかなめは振り返り言った。

「今日はここに泊まっていくんでしょ?」

その言葉に宗介は『君さえ良ければ。』っと聞き返した。

「いいも悪いもホテル今日は取ってないんでしょ?」
「あぁ。」
「じゃ、決まり。っといってもいつもの通りそこのソファーで眠ってもらう事になるけどいい?」
「・・・・・・・・・・・。」

聞くが返事が返ってこない。

「ソースケ?聞こえなかった?」
「・・・・・・・・・・・。」
「まぁ、いいわ。タオルケット取ってくるから待ってて。」

言ってかなめは別の部屋へと取りに行った。


しばらくして戻ってきたかなめは窓際に立つ宗介に視線をやった。

「ソースケ?どうしたの?」

かなめは静かに宗介に近づくと手にしたタオルケットを渡そうと差し出した。

視線を窓の外からかなめへと向けると何も言わずにかなめからタオルケットを受け取った。

「今日はもう寝よ。明日もいるんでしょ?
 丁度日曜だしあたしも休みだからさゆっくりしよう。あたしは部屋に行くね。おやすみ。」

そして、かなめは自室へ向かった。

そんなかなめの後姿を宗介は黙って見ていた。



自室に戻ったかなめはしばらくベットの中で考え込んでいた。

   今日のソースケはいつもと少し違う。なにがあったんだろう?

考えれば考えるほどかなめは寝付けなかった。

すると部屋のドアがカチャリと開いた。

ドアの方へ視線をやるとそこには宗介が立っていた。
驚き体をベットから起こすと宗介へと話しかけた。

「ソースケ?なに?まだ何か用?」

聞き返したが返事は返ってこない。

「ったく・・・なんなの?ソースケ今日はちょっと変よ?」

それでもやはり宗介は何も言わないでいた。
そして、だまったままベットへと近づいた。
かなめを見つめる宗介の視線は真っ直ぐでそらす事はなかった。
そんな宗介に視線にかなめはドキドキしてどうしたらいいかわからなくなっていた。

「どうしたの?」

恐る恐るもう一度訪ねてみた。
すると、宗介は無言でかなめへと手を差し伸べ優しく頬に触れた。
宗介の温もりが指先から伝わってきた。

「な・・・なに?」

すると宗介の顔が近づきやさしくかなめの唇へと触れた。

本来のかなめならその瞬間張り手でもくらわすところだったがなぜかかなめはそうしなかった。


触れた唇が離されただ黙って宗介はかなめを見つめるだけだった。
言葉には出さないが何かを言いたそうに・・・・・・



そしてかなめもまたそのまま宗介へとただ黙って身体をゆだねたのだった。







遠くから聞こえる雨音でかなめ目が覚めた。
それはとても心地よい雨音で優しくふたりを包んでいるようだった。


隣に視線をやると宗介が小さく寝息を立てていた。

安心しきったように眠っている宗介の寝顔を見てかなめは微笑む。
指先でツンツンと頬をつついても宗介は目を覚まさない。


   今は何も考えず安心して思う存分眠ればいいわ。


かなめは宗介が目覚めるまで彼の頬に優しく触れていた。









(Fin)











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