宗介の栽培 2

前作のあらすじ
宗介は秘密裏にミスリルDNAという怪しいモノをトマトに注入し、育てていた。
だがそのトマトは、宗介の知らないところで すでに異常化、かなめに怒られる。
捨てろと忠告されたが、ト マトを育てているうちに情が移ってしまい、処分に悩んでいた (かなりどーでもいい)

「ねえ、ソースケ」
昼休み、教室を出ようとした宗介を、千鳥が呼び止めた

「なんだ?」
「この前の危ないトマト、ちゃんと処分したんでしょうね」
危ないトマトとは、宗介が密かに栽培していた、ミスリルのDNAの品種改良で生み出した新種のトマトのことだ
生物を溶かす体液を吐き、怪しげな言葉を使う
あまりに気味悪いため、千鳥に早めに処分しなさいと言われてしまったのだ

「…………」
宗介は、その問いにすぐには答えなかった
「……ソースケ?」
「む、無論だ。ちゃんとトマトは適切に処理したぞ」
「そう? ならいいんだけどね」
用事はそれだけだったので、後はなんにも言わない
そして宗介はそれじゃ失礼すると言って、教室を出て行った



校舎のはずれの裏庭

宗介は辺りに誰もいないことを確認して、こそこそと校舎の角の地点に向かった
そこに、穴を空けた段ボール箱がひっくり返された状態で置かれている
それを持ち上げると、その下に隠れていたものを確認した
それは、処分しなさいと言われていたはずのトマトだった
こっそりとここに埋め替えて、ダンボールで外側からも見えないようにカモフラージュして隠してきたのだ
「よかった。今日も無事だな」
そうつぶやくと、太陽の光が差し込んできたことで、トマトはゆっくりと身を起こした
「ギョルゲー……」
なんだかその声に、元気がない
するとトマトは、茎を少し前に屈めながら、葉っぱを手のように丸めて、ゲェッ、ゲェッと咳き込んだ
「もう歳か……」
そう嘆いていると、いきなり後ろから、聞きなれた声がした
「ソースケッ!」
振り向いてみると、やはり千鳥だった
「やっぱり……こんなところに隠してたのね」
「いや、千鳥。これは……」
だが、千鳥は弁明する宗介を押しのけて、トマトを見下ろす
「あーあ。もうほとんど枯れかけてきてるじゃない」
「…………」
千鳥の言うとおりだった
トマトはすでに赤い輝きを失って、皮がぶよぶよになりかけていた

「どうすんのよ。これじゃもう食べて処分することもできないわよ」
さりげに千鳥が恐ろしいことを言っていたが、宗介もトマトのようにうなだれていた
「すまない」
「ったく。早めに処分すればよかったのに。で、どうすんの?」
「千鳥。俺にはこの手で育ててきたトマトを殺すことはできん。そこで、せめてこのトマトを最後まで看取ってやりたいのだが」
「…………」
千鳥は、この返事に困っていると、ふとその視線が、横の段ボール箱にいった
「ねえ、こっちはなに?」
トマトの横の一帯にも、段ボール箱がかぶせられていたのだ
「あ。それは……」
宗介が止めようとしたが、千鳥はその段ボール箱を持ち上げた
すると、その下にあったのは、いくつかのカボチャだった
「なんでこんなところにカボチャが……。って、もしかして……」
宗介に視線を戻すと、彼はこくんとうなずいた
「それも俺が栽培しているカボチャだ。ミスリルのDNAを注入して品種改良した新種でな……」
「ってことは、まさか……」
宗介の説明を聞いて、嫌な予感がした千鳥は、とっさにカボチャから離れた
すると、さっきまで千鳥の足があったところに、カボチャが下のツルを伸ばして、噛み付ついてきた

「危なかったな、千鳥」
千鳥は、のほほんと言った宗介の胸ぐらを掴み、そのカボチャを指差した
「なんなのよ、あれはっ!」
「……カボチャだ」
「んなわけないでしょ。人に噛みつこうとするカボチャがあるかっ」
「自衛本能が働いただけだ。むやみに縄張りに足を踏み入れるのはよくないぞ、千鳥」
「…………」
カボチャは、皮がギザギザに裂けて、それがまるで化け物の口のように、ガチガチと噛み鳴らしている
「……もういいわ。ああ。またこのバカによって、物騒な生命が生まれてしまったのね」
「千鳥。見逃してくれ。このカボチャもまた、ずっと手塩にかけて育ててきたのだ。自力で虫を食べ、栄養にして育つという、立派に自立したカボチャなのだ」
するとカボチャは、宗介にすり寄ってきた
「ゲジャジャジャッ。ゲジャッ」
「……そのカボチャもしゃべれるのね」
「当然だ。コミュニケーションが最も重要な……」
「だからカボチャはそんなんじゃねえっての。ま、あたしはいいけど。でもここって、明日から別のクラスが使うのよ?」
「……なに?」
「知らないの? そのクラスの記念樹をここに植えるみたいよ。このままだとこれは発見されて危険物扱いされて燃やされるでしょうね」
「なんてことだ……」
「ゲジャァ……」
宗介は頭を抱え、カボチャは怯えていた


二年四組の、教室後ろのロッカー横に、ダンボールをかぶせられた植木鉢があった

「んで、相良。これはなんだ?」
当然、目立ってしまい、その段ボール箱前に、小野寺やクラスメートが集まってくる
そしてクラスの協力が必要だと感じた宗介は、全てを明かすことにした

「……というわけで、頼む。どうかこいつらをここに置いてやってくれないか」
外された段ボール箱の下にあった植木鉢には、トマトとカボチャが蠢いていた
「グゲッ、グゲッ。ギョゲー」
「ゲジャッ、ゲジャー」
ひとつしかなかったため、ひとつの植木鉢にトマトとカボチャという形になっていた
隠していた場所から、植木鉢に植え替えて、この教室に運んできたというわけだ
「うーむ。トマトとカボチャがこうしてしゃべる光景が見れるとはなあ」
クラス一同、感心してそれを眺めていた
「……その一言で終わりなの?」
クラスの反応に、かなめは身体で抗議を表していたが、無駄だった
「まあいいよ。自力で餌を取れるらしいから、面倒見る手間も無くていいしな」
そしてクラスは、その蠢くトマトとカボチャを受け入れたのだった


だが。その教室で、悲劇が起きてしまった

翌日になって宗介がダンボールを外してみると、そこにはカボチャしかいなかった
そのトマトは、なんと同じ植木鉢にいたカボチャに食われてしまったのだ
その事実に、クラスメートに囲まれながら、宗介はがっくりと肩を落としていた
「なんてことだ。俺のミスだ。これくらいの事態は予想するべきだった……」
「いや……。同じ虫かごにカマキリとバッタを入れてはいけないっていうけど、カボチャがトマトを食ってしまうというのは誰も予想できなかったと思うわよ」
かなめがそうフォローを入れたが、それでも宗介は自分を責めていた
「まあ、あのトマトはほとんど枯れてたし、処分してもらったって思いなさいよ」
「しかし……」
小野寺が、そのカボチャの口の中を覗きこむ
カボチャの口の中は、トマトで真っ赤に染まっていた
「なんかえぐいモンがあるなぁ。それに腐ったトマトを食っちまったから、このカボチャももう食べれねえし」
そう。腐ったトマトを食べてしまったせいで、カボチャも臭くなってしまったのだ
「カボチャは処分せねばならん。しかし……それでも、俺は……」
悩む宗介に、カボチャは茎を曲げて、可愛いポーズをとった
「ゲジャ?」
「いや。お前のせいじゃないということは分かってるんだ……」
宗介も、優しく包み込むように、カボチャを抱いた

「あ。そうだ」
かなめがなにか思いついたように、そう叫んだ
「ねえ、ソースケ。提案があるんだけど」
「?」


宗介の部屋の中で、そのカボチャは吊り下げられていた
ギザギザ口の上辺りに、目の形にくりぬいて、皮を黄色いペンキで塗りつけた
それはハロウィーンによく見かける、顔の形をしたカボチャだった
中がトマトによって赤くなっているので、ギザギザ口はより一層口らしく見え、迫力を出していた
「どう? これならずっと飾っておけるでしょ」
「そうだな」
宗介は、満足そうにそれを眺めた
「季節外れのハロウィーンか」

そのカボチャは、まるで宗介に笑いかけたかのように、かすかに揺れていた

もう作るなよ






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