Ring













目の前の指輪を見て、かなめはため息をついた。

自分が不幸なのか、幸せなのか。

たぶん、後者。

たとえ、この指輪をくれた男が戦場にいるとしても。



先ほどから何度も零れるため息は、心から湧き上がる幸せ。

心が幸せではちきれてしまわないように。

そして、不安で潰れてしまわないように。

きっと、ため息で満たされたこの部屋は、世界中で一番切ない空気を含んだ空間。



だって、もうすぐ彼が戻ってくるから。

戻ってくるはず、だから。



そっと指輪を取り上げると、ひんやりとした感触。

左手の薬指にすっと通す。

ただし、第二関節まで。

最後までは、通さない。

それでもサイズがぴったりなことは分かった。


どうして、なんて知っている。


一緒に連れ立って学校へ通っていた頃、わざと彼の前で指輪の試着をして見せていたのだから。

安い雑貨店の中、シンプルなシルバーリングを意識して、見せ付けるように、気づいてほしくて。

彼をさんざ、無粋な野郎と罵っていたけれど、その実、あたし自身だって相当不器用だったのだ。

お互いに、可愛いくらいに、臆病で、求めてる。


ただ、私はそのままで。

彼は成長してる。

だからこんな器用なコトできるようになったのだ。

包みの解かれたブルーボックスを見て、再びため息が漏れた。




「必要なければ捨ててくれ。」

そう切り出した彼が、珍しく顔を赤く染めていて。

「もしも受け入れてくれるならば、帰って来た時にはめていて欲しい。」

たぶん、精一杯の言葉。

出会った時よりも、ずっと大人びた顔で。

ずっと、色々成長してるのに、こういう肝心なところは相変わらずのまま。



あたしと一緒。


だから、あたしは、甘ったるい幸せの中で一人取り残されてしまって。

切なくなる。




あのね、ソースケ。

こーいうのは、最後までしてくれなきゃ。

だから、迎えに行く時だって、はめて行ってなんかあげない。

ホワイトゴールドの少しひんやりするリングをその手に握らせてやる。

そして、左手を差し出して、お願いしよう。

「ソースケが、はめて。」








ほんのり温まった指輪をそっと抜いて、微笑みかけた。

中央にあしらわれた小さなダイヤが煌めく。

きっと彼は大丈夫だ。


鳴り出した電話に綺羅綺羅とした予感。

指輪を握り締めたまま受話器を取った。


















end.




宗介、出てきてないのに成長しすぎです。クルツあたりの入れ知恵だと思われます。

でも、好きな男からティファニーをもらって悪い気はしないと思います。







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