『おつきみ』
いつもの如く、学校でバカ騒動を起こした宗介を叱りながら帰ってきたかなめ。 帰って来るなり着替えもせずソファーにうなだれるように腰を下ろす。 「なんでアイツはこんなにも順応ってもんができんのかしら…。はああ。」 大きなため息ももう何度ついたことか。きっと数えたら相当な数になっている事は間違いないだろう。 悩む事は多いが、前々から今日のためにある計画を立てていた事を無駄にするのはもったいない。かなめは行動に出た。 まずはPHSを手に取り、お騒がせなアイツの名前を呼び出しかける。 たった一度の呼び出し音でその相手は出た。 「……………ソースケ?」 「なんだ?」 「なんだじゃないわよ。これは電話なのよ、しゃべってくれなきゃわからないでしょ!!」 「む、すまん。」 「まったく……。今からあんたに指令を出すわ。」 「は?」 唐突な申し出に思わず宗介も間抜けな声を出してしまう。 が、そんな宗介にはお構いなしにかなめは指令をてきぱきと伝えていく。 「……了解した。」 「よろし。じゃあ終わったらうちに来てね。」 「ああ。では。」 会話を終わらせ、PHSを置き…かなめは次の作業に取りかかる。 そして一時間ほどすると、指令をこなした宗介がやってきた。 「いらっしゃい。頼んだものちゃんと買ってこられた?」 「ああ…これでいいのだろう?」 スーパーの袋を手渡し、かなめが中を調べる。 「里芋に、サツマイモに…栗にあと梨。よしよし。ちゃんと買えてるわね。」 「それとこれは?」 「ああ、それはテーブルに花瓶用意しておいたからそこに挿しておいて。」 言われたとおり川原で採ってきたススキを花瓶に挿す宗介。 「ソースケー。このお盆に今買ってきた物並べてくれる?」 「あ、ああ。」 一体かなめがなにをしようとしているのかまったくわからない宗介は、とりあえずかなめの言われたとおりにする。 「千鳥出来たぞ。」 「そう? んじゃちょっと待ってて。こっちももうすぐ終わるから。」 そう言い、なぜかキッチンとベランダを行ったり来たりして…どうやら作業は終わったらしい。 ベランダには小さな折りたたみ式のテーブルが置いてあり、その上には宗介が持ってきたススキや野菜が置いてある。 そして最後のかなめがその上に今し方作っていた団子を置き、これですべて完了だ。 「千鳥、これは……。」 「ああ、やっぱりソースケ知らないわよね。今日は十五夜と言ってお月見をする日なの。」 「十五夜?」 「そう。昔は収穫した野菜をお供えして月に感謝してたんだって。丸いお団子はお月様のつもりなのよ。」 「……このススキは?」 「ススキには魔よけの意味があるみたい。だから一緒にお供えしてたんでしょうね。」 そうなのか…という顔をして宗介は供え物と月を交互に見た。 今日は雲がなく、月観賞にはもってこいの天気である。 「………ソースケはきっとこういう伝統行事知らないと思って。いろいろ調べたりしたんだよ。 あたしもお月見のことは知っていても詳しい理由は知らなかったし。」 「そうか……。」 「少しは日本の事知って…騒動起こさないようにしてよね。」 「…………努力する。」 未だに実る事のない努力。 それでも努力していないわけではないのでかなめも見捨てたりはしない。 「さてと…んじゃ夕飯にしますか。今日はソースケの好きなカレーよ。」 「あ、ああ…。」 食後のデザートにはお団子を食べて……。 明日は宗介の買ってきた栗を使って栗ご飯でも作ろうか……………。
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