あなたなら、どちらを選びますか?










『One day with early summer』













昼休みのことだった。
昼食を終え宗介が自分の席でのんびりと雑誌を読んでいたときの事だった。
かなめが雑誌と宗介の間に覗かせて確認した。

「ソースケ、あんたしばらくこっちにいるわよね?」
「あぁ、それがどうした?」
「今ね、恭子たちと話してたんだけどあさっての日曜日みんなでバーベキューをしようって話しになったの」
「そうか」
「もちろんあんたも行くでしょ?」
「あぁ。もちろん参加させてもらう」
「よかった。あんたがいると何かと助かるから」
「どうしてだ?」
「だって、バーべーキューとかなれてるでしょ?」

かなめの問いかけに不思議そうな顔をし「何を言ってるんだ?俺はバーベキューなど・・・」っと考える。
そしてあることに気づく。

「俺はバーベキューはした事はないが似たような経験は何度もあるからな」
「でしょ?」

そう。かなめが言いたかったのはそのことだった。
昔からサバイバル生活には慣れている宗介にとってはバーベキューなどおちゃのこさいさいなのだ。

「じゃ、当日はヨロシクね。あと、河に行くから釣りとか出来るし」
「ほう・・・釣りか。しかし、俺は海釣りしかやったことがないぞ」
「え?釣りってどこでも一緒でしょ?」
「いや、違う。餌もやりかたも違うぞ」
「そうなんだ・・・・じゃ、釣りは無理ね。せっかくソースケに釣ってもらって新鮮な魚食べたかったのに」

残念そうにするかなめ。
そんな彼女の表情を見て宗介はしばらく考える。
そして。

「いや、河釣りもしてみたいと思っていたんだ。そうと決まれば今日の帰りは釣り道具を見に行かないとな」
「じゃ、あたしも付き合うわ」
「そうか。じゃ、千鳥の竿も一緒に買おう」
「ほんと?」
「あぁ」
「よし!じゃ、あたしも釣りがんばるわ!ソースケよりも大きいのを釣ってみんなに自慢してやるんだから」

かなめは握りこぶしを掴み気合充分になった。


「じゃ、みんなにはそのこと伝えておくわ」

そしてかなめは恭子達の所へともどって行った。










その時宗介の携帯に電話が入った。
着信を見るとそれはマオだった。


「はい、サガラだ」
「あ!ソースケ!!」
「マオか、どうかしたか?」
「どうもしてないんだけど。してなかったら電話しちゃダメなわけ?」
「そんなことはない。しかしなにかあっての電話だろう?」

宗介はなんとなく嫌な予感がした。

「あんたさしばらくこっちに帰ってくる予定ないわよね?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
「こっちもね、しばらく演習とか任務とかないのよ」
「それはよかったじゃないか」
「でさ・・・・」

ますます宗介の嫌な予感は大きくなる。
そして先に手を打つ。

「俺は来週の月曜日までそっちへ戻れないぞ」
「なによ、あたし何も言ってないじゃない。それって、先手?」
「そうとも言うな」

そういう宗介の言葉にマオは「そんなの無駄よフフン」っと鼻で笑う。

「なんだ?何が言いたい」
「あんた、明日すぐにこっちへ戻ってきなさい」
「どうしてだ」
「テッサがねみんなでバーベキューしようって」
「は?大差殿が?」
「そうよ。ほら、ここ最近新しく入ってきたメンバー多いじゃない?その歓迎会をかねたバーベキュー」
「それは俺も参加しなくてはいけないのか?」
「えぇ、強制的に」
「ダメだと言ってもか?」
「絶対参加よ」

絶対参加、強制的・・・・その言葉に宗介の顔は徐々に青くなり額から汗が流れる。

「マオ、すまない。今回ばかりは俺は無理だ」
「はぁ?あんたなに言ってんの?絶対参加って言ってるでしょ?」
「それでもダメなんだ」
「そんなの通用しないわよ」
「しかし、本当にダメなんだ。先に先約が・・・」
「先約?はぁ〜ん・・・・ダメよ。かなめとの約束でもダメ。
 これはテッサの命令なんだから。大佐殿の命令は絶対でしょ?」
「しかし!!」

あまりの宗介の大声にかなめたちは宗介へと視線を向ける。
かなめは宗介の顔色があまりにも悪いので心配になり宗介へと近づいた。

「ソースケ?どうしたの?あんた顔色が悪いわよ」

尋常ではない様子にかなめは宗介の方へと手をやった。

「千鳥、大丈夫だ。気にするなちょっとトラブルでな今マオを話してるんだ」
「ほんとに大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」

すると電話の向こうでかなめの声を聞きつけたマオが電話越しから大声で叫んだ。

「かなめ!?かなめ!!そこにいるの?」

電話口から名前を呼ばれかなめは反応する。

「マオさん!?どうしたんですか?」
「やっぱり、かなめね?ちょっと宗介と電話代わって」
「え・・・は・・はい」

かなめは宗介の手から携帯電話を取ろうと手を差し出す。

「ソースケちょっと電話かして」
「え・・・おい、千鳥」

阻止する事が出来ず。宗介はかなめに携帯電話を奪われてしまった。

電話の向こうからマオの言葉が聞こえる。
しかし、上手く聞き取れない。
聞き取れるのはかなめがその言葉の反応して返事をする声だけだった。

「あ・・・はい。わかりました。じゃ、ソースケには伝えますね。
 え・・・うん、こっちは大丈夫ですよ。えぇ、気にしないで。
 はい、明日にはソースケそっちに戻るようにするから。
 うん、マオさん達も楽しんでね。それじゃまた」

静かに耳元から携帯電話をはずしかなめは宗介へと差し出す。

「聞いてたわよね?あんた、明日あっちへ帰りなさい」
「しかし・・・・」
「命令なんでしょ?しかたがないじゃない。あさってはあたし達だけでするから」

冷ややかな目で言われ宗介はなにもいえなかった。





その後かなめは宗介と一言も話す事無く放課後になった。
教室にはすでに宗介一人しか残っていなかった。
釣り道具を買いに行くと言う約束。
それは明後日かなめたちとバーベキューへ行けなくなったと決まった時点でなくなっていた話だった。
だがしかし宗介はそれには納得がいかなかった。
自分の意見を無視し、マオとかなめとの間だけで自分がメリダ島へ戻らなくてはいけない
という事実に宗介は不服を感じていた。








日曜日の朝、かなめは鏡とにらめっこをしていた。

「あたし、なんて顔してんだろ」

結局、その昼休みの出来事以来、宗介と一度も会話をせずバーベキュー当日になってしまった。
せめて、宗介の話しもちゃんと聞いてあげればよかった・・・・・
かなめは後悔の念にかられていた。

気合を入れるために両手で顔を叩く。

「負けるなかなめ!!ダメダメ、こんな良い天気にくよくよしてちゃ。
 もう、こうなってしまったのはしかたがないんだから。
 あたしがそう決めたから宗介はメリダ島へ戻ったんだから」

鏡に向かって何度か笑顔を作り普通でいられるよう自信をつけると荷物を抱え玄関を出た。

ドアを出て鍵をかけようと振り返った瞬間、かなめは驚く。
宗介が肩から長いバックをさけ待っていたのだ。

「あ・・・あんた何してんのこんなところで」
「なにって、千鳥が手でくるのを待っていた」
「そう言う問題ではなくて、あんた戻ってないの?」
「あぁ」
「どうして」
「どうして?そんなこと決まっているだろう。俺は先に千鳥たちと約束をしたんだ。
 先に約束した方を守るに決まっているだろう」
「でも、テッサ、大差の命令よ?命令は絶対なんでしょ?」
「あぁ。絶対だ」
「じゃ、どうして」

かなめの問いかけに宗介は大きくため息をついた。

「千鳥。俺は上司の命令は絶対だと思っている。しかし、おかしな事は聞かない。
 そうだろう?いくら命令だからと仕事と遊びを同じにするのはよくない。
 卑怯だ。上司からの命令は絶対だと?俺は、そういう手は嫌いだ」
「ソースケ・・・あんた」
「だから、俺は大差殿の命令だろうがマオの言いつけだろうがそんなこと知るか。
 仕事以外での上司の命令など聞くか。遊びでの命令など上司など関係ない。
 俺にとっては千鳥たちと行く方が先に決まっていた約束だ。俺は間違っているか?」

かなめは真顔で言う宗介にかなめは何も言う事が出来ずただ首を振ることしか出来なかった。

「では、行こう。みんなが待っているのだろ?」
「う・・・うん」

かなめはいつもと違う宗介に少しドキドキしていた。
つい、ほんの少し前の宗介だったらきっとどんな理由であれメリダ島へ戻っていただろう。
しかし、今の宗介は違う。
大佐の・・・テッサの命令よりもこちらを選んでくれたんだ。
それがすごく嬉しかった。

「ソースケ」
「なんだ?」
「あんた変ったね」
「そうか?そんなことはないと思うが」
「ううん。変った」
「どこがだ?」
「以前のソースケだったらきっとメリダ島へもどってたもの」
「・・・・・・そうかも知れないな。でも、俺の人生だ。
 俺がどうしようが俺の自由だろ?仕事以外は俺のしたい事をさせてもらう」
「っそっか」

かなめは宗介のその言葉を聞いてますます嬉しくなり宗介の手を引く。

「どうした千鳥?やけに機嫌が良いな」
「そう?いつもとかわらないわよ」
「そうか?」

首をかしげ引っ張られる腕を見ながら宗介はかなめについて行った。
すると突然かなめは立ち止まり宗介へと振り返った。

「そうそう、さっきから気になってたんだけど」
「なんだ?」
「あんたが持ってるその長いバックはなに?」

聞かれて肩からバックを下ろすと宗介はファスナーを開けた。

「これだ」
「なになに?」

言われかなめは興味しんしんでバックの中を覗き込む。

「あ・・・それ・・・・・」
「この間の帰り買いに行ってきたんだ」
「一人で?」
「あぁ。君は怒って帰ってしまったからな」
「それは・・・」
「わかっている。だから気にするな。もちろん千鳥の竿も買ってきてある」
「ほんとに?」
「本当だ」

宗介はバックの中に手を入れると竿は出せない代わりにリールを二個取り出した。

「ほんとだ。ありがとうソースケ!そしてごめんね」
「なぜ謝る」
「だってあたしあんたの気持ち無視して帰れって」

申し訳なさそうに自分の顔をみるかなめに宗介はうわっと笑いかける。

「気にするな。今までの俺のことを考えればわかることだ。それに、今は俺はここにいるのだから」
「・・・・うん」

満面の笑みで返事をする。

「千鳥」
「なに?」
「時間大丈夫か?そろそろ行かないと・・・・」

言われてあわてて腕時計に目をやる。

「うわ!いけない!!遅刻よ遅刻!!急がなきゃ」

リールをバックに押し入れあわててファスナーをしめるとバックを宗介にグッと押しやりかなめは走り出した。

「千鳥待て!」
「嫌よ、待てないわ。早く行かないと恭子に怒られちゃう」
「千鳥!!」

背後からあわてて追いかけてくる宗介をチラリと振り返り確認するとかなめは笑って走り出した。











少し前ならばこんな状況は見ることが出来なかっただろう。
宗介は少しずつ変り始めているそう思うとかなめはうれしさでいっぱいになった。












初夏のとある休日
それはとても楽しい1日になりそうな気配だった。













(Fin)












素材提供:evergreen






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