照りつける太陽と、打ちつける白い波しぶき。

暑い夏に来るところと言えば……ここははずせないところだろう……………。



「なんか…ある意味プライベートビーチよね。」



千鳥かなめ。

生まれて初めて贅沢な海でのバカンスに来ていた。




















『 無人島の海 』




















日本を遠く離れた南の島。一応地図にはない島ということでここは無人島である。

なぜそんな無人島に来ているのかというと……もう言うまでもないだろう。



「カナメ。お願い…これ背中に塗ってくれる?」

「あ、いいですよ。」



男共が必死にパラソルを立てている間、水着姿のマオは日焼け止めを塗っていた。



「カナメも塗っておきなさい。最近の紫外線はなめると怖いわよー。若い頃からのケアが大事なんだから。」

「はあ……。」



同じくすでに水着を着ているかなめ。

いろいろと力説されるものの、あながち間違ってはいないのでかなめもいそいそと塗りだし、
背中はマオに塗ってもらう。



「あーーーー!!!!!」



そんなやり取りをしていると、突然大声が響き渡る。その声の主は金髪碧眼のクルツ・ウェーバー。

すぐ隣で作業をしていた宗介はその大声の一番の被害者で、さすがに両手で自分の耳を塞いでいる。



「ちょっと…なに変な大声出してんのよ…。パラソルは立て終わったの?」

「んなことより…なんで女の子同士で塗ろうとするかなぁ?
 せっかくこんなに格好いいお兄さんがいるっていうのによー…。」

「バカなこと言ってんじゃないよ! あんたに任せたら他になにされるかわかったもんじゃないよ。
 あんたに任せるくらいならそっちのソースケに頼むわよ。」

「?」



これはある意味バカにしているようだが…当の本人はわかっていないのでまあ良しとしよう。



「ほら突っ立ってないで、それ終わったらこれ運びなさいよ。
 カナメがわざわざ重たい思いして日本から持ってきてくれたんだから。」



そう言ってマオが指さしたものは、マオの足下に転がっていた。

丸く…バスケットボールぐらいの大きさ。だが色は緑と黒の縞模様。
そしてなにより一つ当たりの重たさが半端ではないもの。



「や…実は全部ソースケが一人で持ってくれたんだけど……。」

「ん? カナメなんか言った?」

「いえ。なにも。」



ここには一つしかないのだが、実は全部で三つ持ってきていたのだ。

それをすべて宗介が運んだという。この辺はさすが男子と言ったところだろうか。

最も、宗介はそこら辺の男子とは体力的にだいぶ違うだろうが。



「スイカ割りなんて久しぶりだわ〜。やっぱたまにはこういう娯楽もしなくちゃねー。
 それにしても…テッサ遅いわね…まだ仕事終わらないのかしら。」



実は今日…メリダ島の海で遊ぼうと言いだしたのはテッサなのだ。
この日のために休みの調整までして…副官マデューカスをも説得して。
ついでにかなめも連れてきてもらって。

だと言うのに…突然の多忙。

しかしこの日を一番楽しみにしていたのもやはりテッサで、
かなめも来るということなのだから…徹夜してでも仕事を終わらせようとしたのだ。



「あと少しで終わるんです。だから皆さん先に行ってて下さい。」



わるいと思いつつも自分達には手伝うことは出来ない。
仕方ないので先に来てパラソルなどの準備をしに来ていたのだ。



「でも……やっぱり海は綺麗ですね。」

「そうね。こんな綺麗な海…滅多に泳げるもんじゃないわよぉ、カナメ。」

「あはは。今日は思いっきり満喫していきます。
 ここならソースケのバカを見張ってなくても大丈夫でしょうし。」

「そりゃそうだわね。って、アイツまだバカやってんの?」

「ええ、それはもう。」

「かー………。バカな部下でごめんねぇ…。」

「もう慣れました。それに最初に比べたら回数も減ってきてますし。」



ミスリルの人間が東京での宗介の行動を聞いたら呆れるのは間違いない。
が、マオから見て宗介は部下であり…仕事上、よくチームも組んでいたことから宗介の性格を見抜いていた。

もっとも、東京での宗介の空回りっぷりを目の当たりにしたことがあるからでもあるが。



「お待たせしました!」

「お。来たわね。」



遅れていたテッサの登場。水着姿にパーカーを着ている。

ようやく現れたと言うのだが……………。



「テッサ…その水着……。」

「あ、あのこれは……ほ、他のも持っていたんですよ?
 でも着る機会なんてないも同然でしたし…久しぶりに出してみたらその……その……。」

「……虫にでも喰われて穴だらけ?」

「…………………………………………………………………………はい。」



なんとまあ、ありがちな展開というかなんというか。

仕方なく今テッサが着ている水着とは陣代高校に来た際持参していたあのスクール水着だ。
紺地に胸には今でもでかでかと 『 2−4 てっさ 』 と書かれている。



「ま、いいんじゃないの?」

「おー。テッサちゃんその水着着てきたのか〜。やっぱりいいよいいよ。うん、似合ってるよ〜♪」

「一部喜んでいる人間もいることだし。」

「……嬉しくないです。」



そんな中、宗介はというと…。

テッサの前だからか直立不動で立っていた。

ちなみにかなめは白のビキニで、マオは黒のビキニだったりする。















その後はとりあえず楽しんだ。

泳ぎだけは得意というテッサも…やはりプールと海とでは違うせいか、
溺れはしないものの、華麗な泳ぐ姿を披露することはかなわず、
マオやクルツに疑われたところをかなめにフォローしてもらったり……。

波打ち際でビーチボールをしたり…普通に泳いだり。

宗介は宗介で一緒に行動してはいるのだが、相変わらずむっつり顔だったり……。

とにかく楽しい時間はあっという間に過ぎていった。



「そろそろお昼の時間ね…。どうする、戻る?」



マオが時計を見て言う。

ミスリルのメンバーは今日この後の予定は入っていない。全員休暇状態なので仕事の心配はない。

もしかしたらテッサには臨時になにかしなければならないことが出てくるかもしれないが、
その時は誰かが連絡に来ることになっている。そしてその連絡もない。

あとまだ半日あるというのに…ここでお開きというのもなにかもったいない。



「いくらなんでもこの格好のまま戻ったら餌食よ。」

「な、なんの餌食ですか…?」



一応聞いてはみるが、かなめもなんの餌食になるのか大体想像はついていた。

仮にも軍隊であるここでは…女子は数えるほどしかいない。その女子が水着姿で基地内を歩けるわけもない。

ましてやテッサはそこの隊長なのだ。



「じゃああいつらに頼んでなにか持ってきてもらうか。」

「あいつらって、ウェーバーさん……。」

「と、ソースケに決まってんでしょ。他にいる? それに、こういう時のために男は使うのよ。」

『はあ。』



さすがは年の功。

男使いがうまいとでもいうのだろうか……。

しかし……………。



「でもマオさん。その肝心のソースケとクルツくんの姿が見えないんですけど。」

「はあ? ったく…そろそろお昼にしようって言ったのに…一体どこに言ったのよあのうすらバカどもは!」

「ひでぇ言われよう。」



突然後ろから姿を現し、声をかけてきたのでかなめと
テッサの二人はびっくりしたのだが…マオは至って冷静だった。

これも普段戦場で気配を消したりしているからなのだろうか…。



「で、なにしてたのよ?」

「内緒♪」

「………またろくでもないこと考えてるんじゃないでしょうね……?」



マオの視線が悪魔の如く変化する。これがいつもどおりのクルツだったら気圧されているはずなのだが…。



「なんかクルツくん…強気ね。」

「ですね。」

「絶対なにか企んでるよね。」

「ですね。」

「こらそこ! 人聞き悪いこと言わない!!」

「だってねぇ?」

「ですね♪」



クルツの性格は基地内のほとんどの者に知れ渡っている。
クルツ本人も否定するどころか開き直ったりしているのだから噂が尽きることはないだろう。

加えて……………。



「この男のやることは今に始まったことではない。今さら驚くこともないが……呆れるには充分だな。」



なぜかクルツがなにかしでかそうとしている時、宗介が側にいたり…近くを通りすがったりすることがあり、
その度にフォローするどころかまじめに答えているのだ。

これで隠し通せるわけがない。



「うるせーぞ。ソースケ。おら行くぞ…ここのおっかない姫さまたちのお昼ご飯を調達に!」

「ちょいとクルツ…聞き捨てならないね。」

「おっと失礼。約一名姫さまには当てはまらなかったな?」

「ほ〜ぅ?」

「ではテッサちゃん、カナメちゃん。ちょっと待っててね〜♪」



さっさと行ってしまうクルツを見て…宗介はため息を一つつき、後を追いかけた。

一方、一部始終を見守っていた若き(?)お姫さまたちはくすくすと笑っていた。







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