第二話 それぞれの食卓


かなめの前には今日の夕飯のカレーとその向こうには父親がいる。

かなめの父親は眼鏡をかけた細身で長身の人物である。

(ちなみに週末は草野球をする。ポジションはピッチャー、本気になると帽子を反対にかぶる。)

彼はとても厳格な人物で、かなめが委員長をしているのも、彼の影響が多くあるからだろう。

そして、この夕飯のカレーも彼が作ったものである。

しばらく黙々と自分の作ったカレーを品定めするように食べてから、彼は言った。

「かなめ、今日は何か学校であったか?」

「…ううん、何も無かったけど…」

「そうか、今は勉強をすることが大切だからな。」

「はい。」

かなめはカレーを食べ終わると立ち上がった。

「じゃあ、私は宿題があるから」

「ああ、頑張って勉強しなさい。」

かなめは自分の部屋へ入っていった。


彼は一人となったリビングで独り言を言うのだった。

「あと2、3年もしたら俺のもとから離れていくのだろうなあ。」

ちなみに彼の妻は友達と食事に行っていた。

いつものことだった。



宗介の前には今日の夕飯の鳥の焼いたものとその向こうには妹がいる。

宗介の妹は銀色の髪をした小柄な少女である。名前はテレサ。

「兄さん、今日はちゃんとした鶏肉よね?」

「ああ」

彼女には宗介の眼鏡の向こうの目が自信たっぷりに見えた。

彼は基本的に無表情だが、妹には良く分かる。今のは普通の人だと「ああ!!!」って感じだ。

「管理人さんにも確認したし大丈夫か。」


そのときの話。

学校から帰ってきたときテレサは管理人室のドアをノックした。

「マオさーん、いますかー!?」

ドアはガチャリと開いた。

「あら、テッサちゃん、どうしたのー?」

「あの、兄のことなんですが…」

「宗介君?宗介君がどうかしたの?」

「今日帰ってくるところを見ました?」

マオは首をかしげながら思い出す仕草をする。

「ああ、見たけど。どうしたの?」

「あの、手に何を持ってたか分かります?」

「ん?えーと、普通のスーパーの袋だった気がするけど…」

その瞬間彼女は心の中で思い切り叫んだ。

「今日の夕飯はまともだ!!」

そのあとテッサはマオにはぐはぐされた。


彼女は宗介の目がちょっと残念そうになったのも見逃さなかった。

しばらく二人でテレビを見ながら食べたあと、

もう、夕飯も少なくなってきたという辺りでテッサは言った。

「兄さん、今日は学校で何かあった?」

「…屋上で寝てたら委員長が来たな。」

「…またサボってたの…?」

「・・・・・・・・・」

「まあ、いいけどね。」

食べ終わった宗介はすっくと立ち上がると隣の部屋へ行く。

「ちょっと寝る」

「うん。」


テッサは一人になった居間で考える。

(委員長って誰だろう…。兄さんとはどういう…?)

彼女がその類稀なる知性を兄のために使うのはしばらく後の話である。







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