猛者たちのクリスマス

作:アリマサ

クリスマスの前夜

テッサが艦長室にこもり、個人の仕事にかかったのを見計らい、マデューカス中佐がミスリルの者を全員集合させた
「みんな揃ったな」
宗介だけは、東京でクリスマスを過ごすため、ここにはいなかった

「どうしたんすか、中佐」
「よく聞け。知っての通り、明日はクリスマスである」
そう告げると、クリスマスの行事を楽しみにしてた兵士たちが、『パーティでもやるんですか?』と目を輝かせてきた
「それは各々勝手にやれ。それよりも、君らに忠告しておきたいのだ」
忠告、と言われて、兵士たちは身構えた
「いいか。……大佐殿には、絶対にサンタクロースの正体を知られてはならん」
「……はあ?」
怪訝な顔をする兵士達を抑えて、マデューカスは続けた
「今年入ったばかりで知らん奴も多いが、大佐殿は、サンタクロースの存在を信じておられる」
「……十六歳にもなってか?」
そのクルツの言葉にも、マデューカスは生真面目に答えた
「その通りだ。徹底的にサンタの正体を知られるものは我々で排除してきた。そのおかげで、今でも純粋に信じておられる。純真な目で『サンタさんに会いたい』とおっしゃるくらいだからな」
「可哀想に……」
いろんな意味でクルツの目頭が熱くなり、くっと手で押さえた
そんなクルツをマデューカスが睨んで黙らせた
「大佐殿は、ミスリルにとって重要な人材である。精神ストレスなどもってのほかだ。そのため、純粋な夢を壊すわけにはいかなかった。そして、大佐殿がミスリルに就任するまでにも、これまでのお偉方が正体を知られぬよう、サンタとしてプレゼントをふるまってきたのだ」
「妙なトコで苦労してんだな」
「これまでの方々の努力をここで終わらせてはならん。大佐殿の夢を尊重し、サンタの正体を漏らすようなことがないよう、各々肝に銘じておけ」
「イエッサー!」




その会議が終わった後、マオとクルツは食堂に向かっていった
「それにしても、テッサも可愛いところがあったもんね」
そうつぶやいて、マオはにやりと笑みを浮かべた
「おい、姐さん。いつもの意地悪は今回は控えたほうがいいんじゃねえか。今回はあの中佐も睨みをきかせてんだぜ。反省文で済む問題じゃねえぞ」
「なぁに心配してんのよ。バラしゃしないわよ」
「ならいいけどな」

それから晩飯の時間を迎えたため、その食堂は兵士たちで一杯になった
そして数分後、そのテッサも、晩飯をいただこうと、食堂室にやってきた
すると自然に隊員達の雑談も減り、口数が少なくなった
だがテッサはそれを気にすることなく、晩飯を受け取って、マオの隣に座る
「ねえテッサ」
「はい?」
ネギとろ丼をかきこもうとした矢先、話しかけられて、その箸を止めた
「楽しみね。明日はクリスマスでしょ」
「そうですね。あの行事は楽しみです」
「テッサは、サンタクロースに会えるのが楽しみなんでしょ?」
「ええ。実は、そうなんです」
いきなりマオがこの話題をけしかけてしまい、食堂内の隊員達に緊張が走った
マオの隣にいたクルツがひじで小突いたが、マオに鬱陶しいわよとかかとでクルツの足の小指を踏み潰され、悶えるだけだった

「テッサは、サンタにどういうイメージを抱いてるのかしら」
「それは、やっぱり素敵なオジサマですよ。だってそうじゃないですか。トナカイさんの引くソリに乗って、クリスマスの静かな夜空の中を駆け抜け、プレゼントを配っていくんですよ。ロマンチックじゃないですか」
それを聞いて、マオは顔をそらし、見えないように小さく笑っていた
「どうしたんです?」
「いえ、なんでもないの。確かに素敵な人ね。一目みたいと思ったことはないの?」
「実は、何回かサンタさんの顔を見たくて、薄目を開けて寝たフリをしたこともあったんです。でも、なぜか上手くいきませんでした」
「寝ちゃうのね」
子供にはよくある事だ。徹夜しようと試みても、最後には睡魔に誘われ、眠ってしまい、無念を味わうのだ
「ええ。いきなり部屋に白い煙が立ち込めて眠くなっちゃったり、白いハンカチが突然口に押し付けられて眠くなったりとかで、気づいたらもうクリスマスの朝で……」
「え……」
「どうしたんです?」
「……いえ、なんでも」
なんとなく今ので、これまでのお偉方がしてきた努力というものが垣間見えたような気がした
「でも、もう見るのは止めました。なんだか、サンタさんに失礼な気もするし……」
「そうね。プレゼントはもうお願いしたの?」
「はいっ。紙に書いて、枕の下に入れておいたんです」
そう言って、楽しみだなとつぶやくその姿は、純真な子供そのものだった
「テサたん……」
食堂内にいたテッサファン会員の隊員達は、その言葉を聞いて、涙を密かに流していたのだった

マオはそれ以上のことは聞かず、無事にその場は終わった
「ヒヤヒヤしたぜ。バラしちまうのかと思った」
「そんな野暮なことはしないわよ。それに、あそこまで信じ込んでたら、かえって言いにくいわ」
「言わなくていいって」


そしてその夜
艦長室の前に、一人の男が気配を消しながら、近づいていた
それは赤い服にふさふさとした白ヒゲ。
サンタクロースの格好に扮したクルツだった
そして艦長室手前の角を曲がろうとすると、ドンと誰かにぶつかってしまった
闇夜の中、じっと目をこらすと、ぶつかった相手は、クルツと同じくサンタに扮したマデューカス中佐だった
「中佐ぁ?」
だが、そこにいたのは中佐だけではない。およそ五人ほどの隊員たちがサンタに扮して、プレゼントを手に持っていた
「まったく貴様ら。自分がサンタになってプレゼントを渡そうという魂胆か」
「いやぁ、食堂での話を聞いてたら、自分がその夢をかなえてやりたくなって」
隊員達は、ぽりぽりと赤い帽子をかいた
よく見れば、そのサンタに扮した隊員達は、みんなテッサファン会員のメンバーだった
「まあ、その心遣いを無下にするわけにはいかん。ここは皆でプレゼントを渡そうではないか」
「おお中佐。話せるじゃねえか」
そんなわけで、数人ものサンタに扮した隊員たちが、艦長室の前に集まったのだった

「で、どうすんだよ? 艦長室は厳重な電子ロックがかかってんだろ?」
だが、マデューカスは、ふんと鼻を鳴らした
「前もって管制員と技術員に要請し、今日だけ電子ロックは無効になっておる」
そしてドアに手をかけると、それは簡単に開いた
「しっかし、無断でこれっていいのかねえ」
「愚か者め。サンタに不法侵入罪という言葉はない」
そしてマデューカスは、艦長室に入る前に、白いハンカチをなにかの薬剤で濡らした
「なにしてんだ? 中佐」
「クロロホルムを染み込ませておるのだ。もし寝ているフリをしていたら、すぐにこれを嗅がせねばならんからな」
「…………」

そうして足音を立てないように忍び込み、テッサの様子を伺ってみる
テッサは、小さく寝息をたてて寝ていた
「よし、完全に眠っているようだな」
「それじゃあ、プレゼントを置こうぜ」
だが、その室内を見回して、みんなは首をかしげた
「おかしいな? クリスマスツリーがねえぞ。プレゼントはツリーの根元に置くのが定番だろ」
だが、マデューカスだけは慌てなかった
「大佐殿は、日本の習慣を重んじて、クリスマスもそれになぞらえてるらしい」
「日本のクリスマスってえと……」
「く、クツ下か!」
一気に男達の興奮が沸きあがり、みな一様に、テッサのベッドの近くを探した
「でも、テッサちゃんって靴下持ってたっけ?」
「お、おい。あそこ……見ろよ」
そこのベッドから垂れていたのは、いつもテッサが履いているストッキングだった
「おぉう。て、テサたんのストッキングだぁ……」
おそらくクツ下代わりにしたそれに、男たちはごくりと生唾を飲む。
そして男どもの目の色が変わり、我先にがばっとストッキングに飛びついた
「放せコラぁっ。俺がテサたんのストッキングにプレゼントを入れるんじゃあっ」
「てめえのは大きくて入らんだろうがっ。この俺との結婚指輪をテサたんのストッキングにっ」
ほとんどがテッサファン会員だったために、その場はひどい荒れようとなった
自分のプレゼントを先に入れようとする者。テサたんのぬくもりを感じようとする者。テサたんのニオイを嗅ごうとする者。
そのストッキングが男たちの醜い奪い合いでびりびりと破れていっても、その騒ぎは収まらなかった

「ん……?」
テッサは、その騒がしい音で眠たい目をこすり、身を起こした
「あ……」
それに気づくと、誰もが気まずく、その場で固まった
「……え?」
テッサはそこで何が起きているのか、すぐには理解できなかった
すぐ目の前で、いかつい男たちが赤い服装に身を包み、はぁはぁと鼻息荒く、テッサのストッキングを破いて奪い合っているのだ
それから数秒して、テッサは涙目一杯の悲鳴を上げたのだった


そしてこの日を境に、テッサはサンタどころか、人間全てが信じられなくなってしまったとか

一生モノのトラウマですな








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