もののけ王子

 

「しし神様!首をお返しいたします!」

 そのようなセリフが交わされた後、エンディングの曲として高く澄んだ歌声が流れた。

 それが流れているテレビの前には、体格のよい黒人の男が目に涙を浮かべつつ呟いた。

「自然と共存することに失敗した、人間達の悲しみの末路か。アラーよ、私に何かするべきことは無いのでしょうか?」

 しばらく黙考した後、男は何かを思いついたようで、彼の上司であり、秘密を知っている人物へ渡すための文書を作成した。

そして巻き戻しの終わったビデオを取り出すと、作ったばかりの文書と共に携え自分の部屋を後にした。

 

「ふむ・・・最近シロの姿を見ていないな。アル。シロを探索できるか?」

 純白のASRX−7〈アーバレスト〉に乗り込み、それに搭載されている人工知能〈アル〉に尋ねたのは、
むっつり顔にへの字口、鋭い相貌と眉間に皺を寄せた少年。

〈ミスリル〉作戦部〈トゥアハー・デ・ダナン〉陸戦ユニット特別対応班
SRT所属コードネームウルズ7、相良宗介軍曹であった。

 彼は今〈アーバレスト〉の細かい整備が終了したので、メリダ島の樹海の中を慣らし運転をかねて放浪していた。

《了解・・・・・・発見しました。ここから南に2キロの地点に、シロのものと思われる熱源反応を確認。
 ちなみに南東の方角に、野豚の反応も捕らえました。シロへのお土産として持っていきますか?》

 アルの報告に宗介の眉間の皺が深くなる。

「余計なことはするな」

《ラジャー。――しかし軍曹殿。久しぶりに親しい友人と出会うときには手土産を持参するのが、世間の一般常識と認識しておりますが?》

「黙れ」

《了解》

 AIの専門家が聞いたら卒倒するような会話をするアルであったが(宗介曰く欠陥品だそうだが)、
 宗介も最近はこの非常識な
AIあしらいに慣れてきたようである。

 アルの報告通り南に進路を向けて木々を掻き分けながら進んでいると、
〈アーバレスト〉と同様の純白の虎が宗介の視界に現れた。この白虎がシロである。

 宗介がシロに直接会うために〈アーバレスト〉をしゃがませた。すると不意にシロの体が傾き、その白き毛皮を大地に横たえた。

「シロ!?」

 今まさに〈アーバレスト〉から降りようとしていた宗介は、狭いコックピットの中で慌てふためいた。

《外傷は見受けられません。なんらかの病気に感染している可能性が高いと思われます》

 アルはいたって冷静にその場の状況を分析した。その声を聞き、宗介はようやく冷静さを取り戻した。

「くっ・・・アル!モードをクルーズからマキシマムに移行!直ちに帰還する!」

《軍曹殿。まだ慣らし運転が終了していませんが?》

「かまわん。人命がかかっているのだ」

《ラジャー。――この場合は虎命とでも言うのでしょうが》

「それ以上無駄口をたたくと、マザーボードごと貴様を破壊するぞ」

《了解。モードをマキシマムに移行します》

 〈アーバレスト〉はシロの体をそっと持ち上げると、〈トゥアハー・デ・ダナン〉に向かって一目散に駆け出した。

 

「栄養失調だと!?」

 〈トゥアハ―・デ・ダナン〉の医務室で、軍医のゴールドベリ大尉にシロの容態を聞いた宗介は思わず叫んだ。

 そんなはずは無い。シロは立派に狩りも出来るし、何よりメリダ島は野豚が繁殖して困っているくらいなのだから、
 食料に不自由はしないはずだ。

「むう・・・」

 その場で考え込んでしまう宗介だったが、彼の背後から「ズルペターン」と誰がが転ぶ音がしたので後ろを振り返った。

 その場に倒れていたのは、輝くアッシュブロンドの髪をみつあみにした美少女。
 〈トゥアハー・デ・ダナン〉の艦長。テレサ・テスタロッサ大佐であった。

「大丈夫でありますか?大佐殿」

「あ・・・あ、相良さん。どうぞお気づかい無く・・・」                  

 手に持っていたものと思われる書類を拾いながら、テッサはあせあせと身を起こした。

「それはそうと、相良さん。シロが栄養失調だそうですね?」

 きりりと姿勢をただし、まっすぐな瞳でこちらを見てくる姿は、
 素直に美しいと感じられた――宗介が何を考えているのかは知らないが。

「ええ、なぜそのような事態になっているのか、自分にはまったく見当がつきません」

 神妙そうな顔つきでテッサにそう言うと、彼女は眉間に皺を寄せてため息をついた。

「・・・すいません。相良さん。責任は私にもあるんです」

「どういうことでありますか?」

「・・・これを見てくれませんか?」

 と、テッサは持ってきていた書類を宗介に差し出した。

 それは、隊員からの報告書の一部をまとめたものだった。

 こんなものを見てもいいのだろうかと思いつつ宗介が目を通していると、彼はあることに気がついた。

「どれも野豚を捕獲もしくは狩ろうとしたときに、何者かに妨害されていますね」

 さらにそれらは、ここ数日間に集中して起こっている。

もしこのことが隊員だけで無くシロにも降りかかっていたとしたら・・・栄養失調になったのもうなずける話だ。

「しかし、誰が、なぜ、このようなことを?」

「そのことなんですけれども・・・極秘事項ですので艦長室に来てください」

 テッサは宗介の手をつかむと、強引に彼の体引っ張ろうとした。

「あ!大佐殿。そこまでしていただかなくても」

 宗介の言葉は耳に入っていない様子で、テッサはそのまま手をつないで艦長室まで宗介を牽引した。



「これを見てください」

 テッサは艦長室にあるテレビにビデオを差し込むと、再生ボタンを押した。

最初にト○ロのイラストが映し出される。宗介は頭に?マークを浮かべつつじっと画面を凝視していた。

 二時間後――

「むう・・・」

 宗介はまったくもって不可解という顔で、腕を組んだまま唸っていた。

「どうですか、相良さん」

「そうですね。あのイノシシが取った戦略ですが、あれだけの兵力がありながら突撃だけの人海戦術を取るというのは、
あまりにも浅はかではないかと」

 宗介の発した言葉をテッサは口をぽかんと開けて聞いていた。

そのまま宗介は、あの事態でどのような戦術を取るべきか、という講義を始めようとしていたが、
どうにか意識を取り戻したテッサが文書を差し出すと、話を止めてそれに目を落とした。

 文書の内容は、ビデオの内容から自然の大切さを訴えることから始まり、
まずメリダ島の野豚の保護を考えるべきだということと、そのための作戦が事細かに記載されていた。

「提案者は、ウルズ1・・・クルーゾー中尉か!?」

 あの、極端な現実主義者のように見えた中尉がなぜ?と、疑問が頭をよぎったが、
テッサはこのような冗談をする人ではないのでこれは真実なのであろう。

「すみません。さも当然のごとく、企画書が提出されていたのでついつい見逃してしまって・・・」

 テッサにしてはうかつなミスであった。

「いえ、最近は忙しかったので仕方が無いとは思いますが」

 宗介は首を振った。実際テッサは本当に半端ではなく忙しかった。

「・・・大佐殿。この件は自分に任せてはくれませんか?」

 野豚についてはどうでもいいが、今後シロが安心して暮らせないというのは我慢ならなかった。

「ええ、元よりそのつもりです。ウルズ1をとめられるのは今は相良さんしかいません」

 運の悪いことに、SRTの指揮官であるカリーニン少佐は長期出張中だったのだ。

「それでは、ウルズ7相良宗介軍曹、任務に移ります」

 ピシッと敬礼をする宗介に、テッサも敬礼を返す。その後宗介は足早に艦長室を退出した。

 

《目標補足》

 アルが短くメッセージを伝えてきた。

 〈アーバレスト〉に乗り込んだ宗介は、ショットキャノンを構え標準を合わせた。目標は言わずともがな野豚である。

 刹那、背後から銃弾が叩き込まれた。幸い〈ラムダ・ドライバ〉が作動し致命傷には至らなかったが。

〈アーバレスト〉が振り返ると、そこにはウルズ1こと、ベルファンガン・クルーゾー中尉がサブマシンガンを構えていた。

 ASに関しては宗介をしのぐ腕前と知識を持つ彼が、〈ラムダ・ドライバ〉を搭載した〈アーバレスト〉に
 生身で勝負を挑んでくるとは――と宗介は息を呑んだ。

 物事に素直に感動したときの人間の行動力は恐ろしいものだ。

 だが、宗介もそれに素直に従う気は無い。ショットキャノンをクルーゾーに向けるとためらいも無く引き金を引いた。

ピュウゥゥー

 ショットキャノンの銃口から出てきたのは大量の水であった。

要するに宗介が持っていたのは水鉄砲だったのだ。それでも巨大な銃口から吐き出された水は、一瞬でクルーゾーをびしょ濡れにした。

 クルーゾーは予想だにしなかった事態に多少は動じたが、すぐに〈アーバレスト〉にサブマシンガンを向けた。

『中尉、頭は冷えましたか?』

 スピーカーを通して、宗介の声が樹海に響いた。

「どういう意味だ?」

 宗介に敵意が無いのがわかったクルーゾーは、銃を下ろした。

『あの作品にどのような感銘を受けたかは知りませんが、中尉のされていることは明らかに我が隊の不利益になることです。

なぜ野豚を殺さなければいけないか、中尉も重々承知のはずですが?』

「我々人の都合だけで、環境に手を加えようとすることが間違っているのだ」

 クルーゾーの言っていることは正論だった。

もともとはこの島にいなかった豚だったのに、人間によって無理矢理連れてこられて、
今は、また人間の勝手な理由で駆除されているのである。

『確かにそうかもしれませんが、今、豚を保護すると、マラリアなどの伝染病により
この島の生態系そのものが崩れてしまう恐れがあります。

もともと人が引き起こした事態だからこそ、我々が責任を持って改善していくことが大切なのではないでしょうか?』

 宗介が珍しくまともな事言っているが、これはクルーゾー説得のためにアルが考えた文章を読んでいるだけである。

つくづくすさまじい学習能力の
AIだ。

「小を殺して、大を生かすという考え方でいいのか!?」

『中尉。残念ながら我々は万能ではありません。

「ベスト」を目指すのは当然ですが、状況によっては「ベター」を選択する必要があると思います』

 その言葉を最後に、しばらく沈黙が辺りを支配した。

「わかった。確かに私が浅はかだったようだ。直ちに帰還し、大佐殿に提案の取り下げを伝えよう」

 そう言うと、クルーゾーはあっというまに樹海の中に姿を消した。

《ミッションコンプリート。うまくいきましたね、軍曹殿》

「うむ、これでシロがメリダ島で安心して暮らせるな」

 コックピットの中で宗介は深いため息をついた。

 

 一方こちらは艦長室。

「相良さん。ビシッと決めて・・・かっこいいですぅ(はあと)」

 アルに頼んでこっそり現場の状況を見ていたテッサは、黄色い声をあげてうっとりしていた。

 

 数日後。

「ばば様。巨人兵死んじゃった」

「あんなもの滅びたほうがいいんじゃよ」

 と、テレビ画面からそのようなセリフが流れてきた。

「むう、人型の巨大兵器は滅びたほうがいいと申されるのか、ばば様!」

 画面の前で、クルーゾ中尉は再び考え込み、文書を作成しだした。

 タイトル「ASの危険性について」

 

〈終)

 

あとがき

 

こんにちは、yoshiです。初投稿になります。

まずは、クルーゾー中尉ファンの皆さんと、スタジオ○ブリファンの皆様、申し訳ありません。

こんな書き方をしておりますが、私は両方とも好きなので・・・怒らないでください。

あと、宗介の言っていることで矛盾やらなにやらあると思いますが、見逃してください。

この話、続きそうな終わり方でしたけど続きません。続きが書きたい方は、連絡など取らなくていいので、自由に書いてください

実際に書いてみると投稿していらっしゃる方々の凄さがよくわかります。

これからもネタがあったら参加したいと思いますので、よろしくお願いします。




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 カナリア





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