『真冬の年末バトル 』
「・・・高っ!」
雪が降りそうなくらい寒い冬の商店街。
年末のせいか重そうな買い物袋を抱えスーパーから出てくる子供連れ主婦やおばさんが大勢見える。
千鳥かなめもまた、そのスーパーに足を運んでいた。
「年末物価は急上昇。こりゃぁ、家計の敵ね。うわっネギも高い!うわっこっちも!」
そこでグルリと辺りを見渡してみる。
「・・・なのに買い物客の跡は絶たず、かぁ・・・嫌ねぇ」
見た目は若く、きれいな顔立ちだが、口を開けばどこかのケチな主婦である。
「ソースケ?そっちはどう?」
「全滅だ。ほとんどの品が高値で販売されている」
「全滅かぁ・・・んじゃぁ餅も?」
大体予想は付くが恐る恐る聞いてみる。
「ああ。158円の値上がりだ」
ガクリとかなめは肩を落とした。
今日は二人でお汁粉を食べようと思っていた。
が、買ってあると思ったお餅が見つからなかったので、普通の買い物のついでに二人で買いに来たのだ。
「ったく、この時期に値上げとは悪魔ね。じゃなきゃ金儲けの上手い天使だわ。ちょっと歩くけど、安井スーパーに行くわよ」
「了解」
買い物篭を直し、二人はスーパーを後にした。
この『高杉スーパー』は店員も店長もまだ若い。それが目当てで買いに来る人もいるが、
一番の理由は近場ということだろう。何キロか先には大きいスーパーがあるが、「遠い」や「人が多くて疲れる」と
言った人はこのスーパーで買い物を済ませるのだ。
「やっぱ、あのスーパーはダメね、高過ぎ。ここは、時間をかけてでも安い品を手に入れないと・・・。
いい気分で年越したいし。違う店で『こっちの方が安い!』とかって嫌じゃない?」
「しかし、安い物が必ずしも良いとは限らん。
昔オレの友人が『この銃は他で買ったら50〜60万するが、ここでは10万で手に入る』と言われた。
友人は金に困っていたのでその銃を購入したらしい。しかし、いざ使用したら、動かなくてな。
訓練途中だったので良かったものの、実戦だったら危うく命を落とすところだった。
結局売った本人は夜逃げして、金も戻ってかなかったらしい。まぁ、オレならそんな悪徳商売には騙されんがな」
「・・・なんか話の論点ズレてない?まぁ、いいわ。行きましょうっ!安井スーパーはセールとかこの時期してるかもっ!」
そう考えると、意思と関係なく足が早くなっていく。
やはり女は『セール』や『バーゲン』という言葉に弱いのだ。
それに付き合う男は、なにかと嫌な役目が回ってくるが、宗介はそんなことお構いなしだった。
「ソースケ!急いでっ!」
「了解!」
いつの間にか猛スピードで走りだしていた。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
「・・・な、なんなのよ、これっ。ゼイゼイ」
かなめと宗介の前には道が見えないくらい人でいっぱいだった。
やはり、
「セール?」
だったらしい。
「すごい人数だな、驚いた」
ガッ
かなめは宗介の服を思いっきり引っ張った。
「うぉっ」
「なにボケッとしてんのよっ!!早くいくわよっ!いいものが無くなっちゃうじゃないっ!!ってゆーか餅!!」
何人もの人を突き飛ばし、また何人もの人を蹴飛ばして、二人は食料品売り場へと向かった。
どこを見ても人、人、人、の大群。正月の福袋並だ。
「ソースケー!あった!?」
大声で叫ぶがいくらか聞こえにくい。
「いや、まだ発見できていない・・・ん?」
宗介は何かを見つけたらしい。
押されながらも、階段の方へと進んでいった。
「っく・・・この人ごみじゃ、前にも進めないわ・・・」
と、そこに、
「あっ!あったわ、ソースケ!まだ残ってる!つーかこれって奇跡よね、はっきり言って!」
目当ての餅の袋をガッと掴み、上に掲げた。が・・・
「・・・あれっ?ソースケ?」
人ごみに紛れたのだろうか、宗介が見当たらない。
見えるのは奥さんやおばさんの血走った目だけ。
「ソースケー!」
結局、宗介は見つからなかった。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
「もーどこ行ったのよ。ソースケのヤツ・・・」
かなめはボロボロのビニール袋に、餅とあの後ゲットしたネギを入れて待っていた。
もっと買いだめするつもりだったが、もはやそんな気力はなかった。
ふっとかなめは先の空を見た。
さっきまでは水色の空だったが、今は淡い朱色に変わろうとしている。
かなめは手を口の前へもっていった。
「はぁー・・・もう今年も終わりかぁ・・・」
色んな出来事が頭の中をよぎる。
楽しかったこと・・・
辛かったこと・・・
嬉しかったこと・・・
悲しかったこと・・・
それから・・・
はぁ・・・
白い吐息がかなめを包み、シンミリとその朱色が心を染めた。
すると、
「ん?ソースケ・・・!」
入り口の方から宗介が歩いてきた。大分苦労したのだろう、服装が少し乱れている。
「どこ行ってたのよ、探してたのよ?」
「すまない、出たくても出られない状態だったんでな」
「・・・なんか買ったの?餅はもう買ったわよ?」
「これか?」
宗介は袋に手を伸ばした。
そして、
「手袋・・・?」
「ああ、寒くなってきたからな」
「どこに行ったかと思えば・・・」
そんな口を利きながら、かなめは赤い手に手袋をはめた。
冬を忘れさせるような心地よさだった。
「・・・ありがと」
「いや・・・」
「じゃぁ帰ろう、おいしいお汁粉作るからっ」
「ああ」
外は冬も冬の真冬。
けれど、二人の心は春のような温かさに包まれていた。
end
-*-*-*-*あとがき-*-*-*-*
はじめて投稿しました、手毬 ゆうです。
最後まで目を通してもらって、ありがとうございます。
いかがでしたか?
今回のテーマは『真冬』。
あと年末のよくあるゴタゴタ日常も書いてみました。
最後らへんでは、シンミリとする場面も取り入れてみたり・・・
読んでる方に、冬の中の温かさを感じてもらえたら幸いです。
お汁粉がでてきたんで、テッサも登場させようかと思ったんですけど、そーかなonly にしてみました。
(ごめんね、テッサ・・・)(笑
ではでは、皆さんとまたお会いできることを願って・・・*
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