キャプテン・ウソップと黄金の日々


作:アリマサ

メリダ島の基地内に唯一存在するパブにて

そこに、宗介とクルツが酒を煽っていた

いや、宗介は付き合いなだけで、飲み物もウーロン茶で済ませていた

そしていつものように、愚痴を聞かされている

「ンでよぉ、あの野郎。オレの整備がお粗末だって愚痴愚痴言ってきやがって。ったく、やってらんねーっての」

「俺はお前の愚痴に疲れてきたな」

その宗介の文句にも気にした風もなく、クルツは注文したスコッチをぐいーっと飲み干した

「あー……なんってーか。新しい刺激が欲しいなあ」

そうクルツがぼやき出すと、そのパブのマスターが割り込んできた

「よし、わしがロマンを授けてやろう」

「またか……」

二人は声を揃えて、うんざりした

「またかとはなんじゃあっ。せっかくロマンを授けようとしてるというのに」

「しかしなあ、爺さん。以前にキャプテン・アミーゴの地図が本物だったことで、調子に乗ってるだろ。現に、その後渡された宝の地図の数々は、全部スカだったじゃねえか」

「第一、なぜそんなに宝の地図を持っているかが甚だ疑問だ」

「ばかもん。今度は間違いなしじゃ。何せ今度の地図を書いたのは……あの『キャプテン・ウソップ』じゃからな」

「ウソップって……。あからさまに怪しすぎるネーミングだな……」

「今度のは信憑性があるぞい。なにせ、偉大なる航路・グランドラインを突破した海賊の男じゃからな」

「……知ってるか?」

「いや、初めて聞いたな」

「まあ、知らんのも無理は無い。ウソップは狙撃手でな。その海賊の船長となる者が、凄い男じゃったそうじゃ。その支え役として務めた為、大きく扱われることはなかった」

「おい、語りだしたぞ」

「放っとけ」

「その船長の名は『モンキー・D・ルフィ』じゃ」

「モンキーって。猿じゃねえか!」

「やはり妄想事だったな」

「きっとサル山の大将だったんだな。猿にとって、河を渡りきるのは偉大なことだったんだろうぜ」

「そうかもしれん。いや、猿なのにたいしたものだ」

と、二人してからかいだす

「ばかもん。猿ではない」

「それじゃあ、人間なのかよ?」

「彼は強かった。海賊王に相応しい強さでな」

「ほう……」

空想物語とはいえ、なんだか展開が面白くなってきたので、二人も少し耳を傾け始めた

「どんな戦い方をしたんだ?」

「彼はな……腕がゴムのように何メートルも伸びてな」

「人間じゃねえじゃねえかっ!!」

クルツはショットグラスをだんっとカウンターに叩きつけ、いい加減にマスターの妄想言を打ち切った

「大体、ウソップなんて名前からして、信用できん」

「お。ウソっていえばよ。今ごろ日本ではエイプリルフールじゃねえか」

急に話を変えて、宗介に振ってきた

しかし、クルツの言葉が、宗介には理解できなかった

「……エイプリルフール?」

「って、知らねえのかよ。ったく、おめえほんとに日本人かよ」

「面目ない。説明してくれ。エイプリルフールとはなんなのだ?」

「エイプリルフールってのはな。その日一日だけ、ウソをついても笑って許される特別な日なんだぜ」

「……まったく理解できん。では、テロが『今日はテロ活動はしない』と宣言しておいても、それがウソで、急襲して大総統を殺したとしても、世間はそれを笑って許すのか?」

「いや、その例えはあまりに極端すぎねえか」

「そういうことじゃないのか?」

「もっと軽く考えろよ。
例えばさ『おい、今日は外、雨が降ってるぜ』と男Aが男Bに言うとするだろ。したらさ、男Bは慌てて傘を用意して、レインコートを身にまとってから、外に出るわけだ。
だが、外は男Aのような雨は一粒も降ってなくて、快晴。男Aはウソをついたってことだ。当然、男Bは騙されて頭に来るよな。
そこで『騙しやがったな』と男Aに問い詰めると、男Aはこう言うんだ。『おいおい、今日はエイプリルフールだぜ。怒るなよ』ってな。すると男Bも陽気に笑うんだ。『ああ、そっかあ。はっはっは』ってな。こんな感じだ」

「…………」

「…………」

「……変な風習だな」

「オレもそう思う。でもまあ、ユニークでいいんじゃねえの?」

「むう……」

それでも理解に苦しんでいると、いつの間にか姿を消していたマスターが帰ってきた

「よぉ、どこ行ってたんだ?」

「これを取りに行っておったんじゃ。そら」

と、一枚の古い、丸まった紙をクルツの前に放った

「…………?」

その紙を広げてみると、それは地図だった。その地図の右下に、『キャプテン・ウソップ』のサインが入っていた

「持ってくるなよ……」

うんざりした目で、その地図を見落とす

「おっ」

「……どうした? まさか、その地図が確信の持てる物だったのか?」

「いや、そうじゃねえ。ただ、いいことを思いついてよ」

そういって、にやりと笑った

そのクルツの笑い方は、なにかろくでもないことを考えた時の笑い方だった

「なにを考えている?」

「くっくっく。こいつを使ってよ。クルーゾーのやつをからかってやろうぜ」

「中尉殿を?」

「あいつはここに就任したばかりだからよ。マスターの虚言癖のことなんざ知らねえだろ。そこでよ。この地図をちょちょいといじって、本物らしくしてあいつに無駄な宝捜しをさせるんだ。それを見て楽しもうぜ」

「…………」

まったく、こういうくだらないことにはよく頭がまわるもんだ。

たしかに、こういう手はマスターの性格を知っているみんなには通じないだろうが

「さっそくこの地図に書き足そうぜ」

クルツが、その地図にいろいろな宝捜しの偽のヒントを書き込んでいく

その楽しそうな姿は、まさに悪戯好きな子供そのものだった

「ひっひっひ。この崖のところでこう叫ばなければならないっと。傑作モノができそうだぜ」

「…………」

「どしたよ、ソースケ。突っ立ってないで、おめえもなんか書けよ」

「俺まで巻き込むな。大体、中尉殿には敬意を払うべきだろう」

「ふぅーん。せっかくのチャンスなんだぜえ? おめえもあの訓練のことを思い出せよ。いいようにやられてただろ」

「む……」

そう言われて、あの訓練を思い出した

実験といってもいいあの屈辱なクルーゾー中尉との模擬戦。

いや、あれは実戦だった

だが、俺は負けた――罵倒を浴びせられてなお、無様にやられたのだ

そしてその屈辱の敗北は、しっかりと記録に残され、管制室の人たちの目にも焼き付けられてしまった

だが、それをどうというつもりはない。

負けたのはやはり俺が不甲斐なかったことが一因だろうし、あの時はアーバレストを毛嫌いしていた。

それにしても……

クルツは、まだあの時のことを根に持っていたのか……

「どうよ。腹立ってきただろ?」

「……いや」

「ちえっ、なんだよ。やられたままでなにもしねえのか? 情けねえな。この場にカナメがいたら、嘆くところだぜ」

「……なぜ、千鳥が?」

「カナメならこう言うぜ。右頬を叩かれたら、左頬も差し出せ。やられたらやりかえせってな」

そんなこと、かなめは言わない。これはクルツがあくまでも協力してもらおうと、でっち上げたことなのだが

「そう……なのか?」

宗介はそれを信じた

そこにつけ入るように、クルツは一気にまくしたてた

「そうそう。普段からやられてるだろ? それに今日はエイプリル・フールだぜ。俺たちがやるのは、あくまでも見届けるだけだ。クルーゾーがこの地図をどう判断するかは向こう次第だ。地図そのものから騙してるわけじゃねえんだからな。今オレが書いてるこのヒントも、この地図の解釈をオレなりに解明しているだけさ」

「…………」

「納得したか?」

「……納得はしない」

「硬えやつだなー。いいから、なんか書いてみろよ。息抜きって意味でもよ」

「む」

半ば強引に、強要され、仕方なくひとつだけ書き込んでおいた

これでクルツの気が治まるのならな

すると、そのパブにめずらしくクルーゾーが入ってきた

なぜここに訪れてきたのかは分からないが、これはチャンスだ

さっそくクルツは、その地図をマスターに返した

「なんじゃ? いらんのか」

これまでの二人のやりとりを聞いていなかったので、その地図に偽のヒントを書き込まれたことは気づいていなかった

「ああ、悪いな。もうオレらにロマンはいらねえ。オレよりも、あのクルーゾー中尉殿に薦めてやったら?」

そう言われて、マスターは渋々地図を受け取った

「分かったわい。ったく、せっかくのロマンを……。ええわいええわい。おぬしらなんかよりあの黒人にくれてやるわい」

「へへ、悪いな」

そのクルーゾーは、クルツたちの手前まできて、客達の顔を見渡した

「おぉ、これはこれは。クルーゾーじゃねえか。どうしたんだ?」

「クルツか。お前に用は無い。それより、マオ曹長がここにいるかと思ったのだが……ここでもないようだな」

「姐さんに用かよ。こっちは、マスターがてめえに用があるみてえだがな」

「なに?」

クルーゾーはマスターの方に顔を向けた

「俺に……なにか?」

「うむ。わしからお前さんにこれを授けてやろうとな」

「…………?」

その手渡された、古い紙を丁重に広げていく

「これは……なんの地図だ?」

「それはな。このメリダ島に眠っているといわれる隠し財宝の在り処を示した地図じゃ」

「なんだと」

すると、食い入るように、その地図の端から端まで見ていく

その反応を見て、クルツはイケそうだと確信した

「ほう、そりゃあスゲエや。本当に宝の地図だったりしてな」

「そ、そうだろうか」

なぜか、そのクルツの誘い言葉にまんまと乗せられていくクルーゾー

「実はよ。こないだオレたちも、この島で隠し財宝を当てたことがあるんだぜ」

「……なに」

「本当のことじゃよ。キャプテン・アミーゴの財宝でな。わしがくれてやった地図を頼りに、この二人が見つけたんじゃ。まあ、結果大騒ぎになったんじゃがな」

自慢モードに入ったマスターの証言もあったことで、クルーゾーは目の前の古い地図を信用し始めた

「確かに……この地図の風化ぶりを見てみると、かなり古くなっていることは確かなようだ」

と、その羊皮紙を軽く振ってみる

キャプテン・アミーゴの時と同様、かさかさと今にも崩れてしまいそうな乾いた音がした

「今日は確か、演習の予定が中止になっていて、それ以外のスケジュールは特になにもなかったな。……やってみるか」

引っ掛かった! と、クルツは心の中でガッツポーズをとった

クルツの口が上手かったのか、元々クルーゾーが興味あったのかどうかは知らないが、探検する気になったらしい

「では、ありがたくこれは頂いていく」

その地図を折りたたんで、胸ポケットにしまうと、マスターに礼を言って、そのパブを出ていった

「うまくいったな」

クルツはそれを見送ると、パチンと嬉しそうに指を鳴らした

「信じられん。なぜ、中尉はあれほど簡単に……?」

「なんだっていいじゃねえか。さ、オレらも行こうぜ」

「行くって、どこへだ?」

すると、クルツは当然のように言ってのけた

「決まってんだろ。あいつの後をつけて、宝探しするマヌケっぷりを直に見届けてやるんだよ」

「…………」

乗り気でない宗介を無理矢理引っ張って、クルツたちもそのパブを出た

そして、クルーゾーに声をかける

「……どうした?」

「オレたちもついていくよ。後からついていくだけで、邪魔はしねえからさ」

「なんのためにだ?」

「水臭えなあ。協力者は一人でも多いほうが助かるだろ。冒険は男のロマン。オレはそういうヤツを見ると、手伝いたくなるんだよ」

「ウェーバー……」

クルーゾーは、その言葉ひとつひとつを真摯に受け止め、そしてクルツの手をとった

「協力に感謝する」

「いーってことよ。んじゃあ早速行こうか」

「そうだな」

なぜか話はトコトン拍子に進み、こうしてクルーゾーを先頭に、クルツ、宗介の三人が、新たに森林地帯へ財宝探しに行くことになったのだった




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