紅の日
『赤』
それを見て俺が連想するもの・・・
トマト
人の血
そして
炎
炎は特に印象深いものだ。
俺が多くの友人を失い、そして、あの人物と出会った時――
その日はとてもいい天気だった。
少年がゲリラのキャンプを発つため、すたすたとキャンプの出入り口へ向かっていた。いつも通りの偵察任務のために――それを怠るだけで即、死につながることがありうる。そこはそんな世界だった。
そうは言ってもいつもの任務だ、たいていは何事もなく一日が過ぎる。
他の者が偵察の任務をするときは、そんな理由で割りと気楽に出発するのだが、この少年は鋭い目つきのまま、張り詰めたような表情で偵察の任務にあたる。それほどまでにすさまじい人生を送ってきたのだろう。最初はキャンプの人たちも、そのことについて尋ねてみたが、少年が何も言おうとしないのでもはや尋ねるものはいなかった。
「よう、カシム。偵察か?ご苦労だな」
銃器の整備をしていた男が、こちらに向かって手を掲げた。カシムと呼ばれた少年はそれに無愛想にうなずくと、きびすを返して再びすたすたと歩き始めた。
このキャンプでは、合う人が皆家族のように生活している。もちろん血縁関係のあるものなどほとんどいない。そのほとんどが、戦争孤児か脱走兵の類だ。だがそんな中でも命がけの戦いを繰り返してけば、一身同体になってもおかしくは無いだろう。そう、彼らは――もちろんカシムも含めて――家族以上の深い絆で結ばれていた。
カシムはその身体に似合わない大きさのサブマシンガンを肩に担ぐと、キャンプを後にした。
道無き道を掻き分けて、自分達の作ったトラップに引っかからないよう、また自分が通った痕跡を残さないように注意しながらカシムは密林の中を進んでいた。
偵察の任務中であったが、彼は以前に出会ったジープに乗っていた男の事を思い出していた。
『精が出るな、ぼうず。』
その一言をかけられて二言三言会話しただけだったが、妙に印象に残っていた。あれ以来会っていないが、奴が言った一言が気になっていた
『ここの戦争はじきにおまえらの負けだ。」
そうは言っていたが、今だカシムのいるキャンプは健在だ。あのマジードが率いているのだ、そう簡単に落ちるはずがない。だが・・・もし・・・
ドォォォン!!
と、ここで爆音が響きカシムは思考の中断を余儀なくされた。
あの方向は・・・間違いない。キャンプだ!
カシムはそれを認識したとたん、わき目もふらず駆け出した。
キャンプは燃えていた。
全てを焼き尽くすような、紅蓮の炎によって。
カシムは頭に血は上っていたが、すぐに駆け込む様な事はしなかった。
状況を確認してからでないと、自分がむざむざ殺されるだけ。彼はその事を老戦士ヤコブからしっかりと教授されていたのだ。
キャンプでは制服を着た人物が忙しそうに走り回っていた。
誰かを探している様子で、逃げていくゲリラを、特にどうこうするつもりは無いらしい。
よく観察してみると、どうやらKGBの管轄で動いてるようだ。時折そのような言葉が交わされるのが聞こえた。
虐殺が目的ではないらしいが、多くの人間が死んでいるのが見えた。今朝自分に声をかけてきた男も死んでいるのがわかった。
その男、戦闘に関してはあまり卓越した技能を持っているわけではなかったが、機械系等の調整の技能には優れた力を発揮していた。事実カシムは彼の整備によって何度も命を拾ったことがあった。
すると、カシムの中で何かが働いた。それが何なのかはわからなかったが、カシムはサブマシンガンを手にとってまさに飛び出そうとした。
しかし、その瞬間に背後から、とん、と首筋をたたかれてカシムの意識は闇に落ちていった。
目が覚めると、目前には広大な湖が広がってた。カシムはそこを知っている。先ほどのキャンプからはさほど遠い所ではないが、なかなか見つけにくい所にあり、貴重な水源として重宝していた。
なぜこんな所に・・・と、考えるより早く彼は人の気配を真横に感じ素早く身を起こした。
が、その身体はいとも容易く地面にたたき伏せられた。
「私は君に危害を加えるつもりは無い」
そう言われたので、とりあえず身体から力を抜くと彼を抑えていた手の力も抜けた。
今度はゆっくり身を起こすと、カシムを押さえつけていた人物の正体が判明した。大柄で彫りの深いロシア人(?)だ。その男もカシムは知っていた。記憶に間違いが無ければ、その男はソ連の特殊部隊スペツナズの指揮官。簡潔に言うと、カシムは以前彼と戦い、地形を熟知していたはずだったがそれでも完敗した。つまりは敵同士だったのだ。そんな男がなぜ?
「君たちに謝らねばならん」
彼は重くそう告げると、カシムに語りだした。
要約すると、彼は今KGBに追われていて偶然彼が逃げた方向にカシムたちのキャンプがあった。と、そういうことだ。
なんという偶然か。このような偶然の一つで、あのジープの男が言ったとおり、キャンプは壊滅した。だが、この男を恨むわけにも行くまい、彼はカシムたちと同様に、自らの命を護るために逃げてきただけなのだから。
飛び出そうとしたカシムを気絶させて、ここまで担いで避難したのもこの男らしい。
「不幸中の幸いというところか。君たちのキャンプの人々は半分近く脱出に成功している」
彼は村の近くにいて一部始終を見ていたのだという。なぜ助け舟を出さなかったのかという無かれ。しょせん個人の力では大部隊相手に戦えるはずも無い。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
カシムは何も言わなかった。いつも通りむっつりとしている。普段から無口なのであったが、男はふさぎこんでいるのだろうと見て取ったのか、わざと明るめに声をだした。
「自己紹介がまだだったな。私はアンドレイ=カリーニン」
「・・・カシム」
これもいつも通り、カシムはぶっきらぼうに答える。
「ふむ、カシムくん。君はボルシチという料理を食べたことはあるかね?」
カシムは首を振った。
「そうか、あれは私の母国の料理でな、亡き妻がよく作ってくれたものだ・・・」
カリーニンのボルシチについての講釈は、ヤコブが彼ら二人を発見するまでの数時間、延々と続いた。その料理をまったく知らなかったカシムが、味を明確に思い浮かべることができるようになるくらい詳しい説明だった。
その後カリーニンはカシムたちのゲリラキャンプに身を寄せ、しばらく行動を共にすることとなる。
余談であるが、あのジープの男とも再び再会した。カシムはカリーニンと協力して彼を殺した――はずだったのだが、これはまた別の話である。
そして現代。
なぜ相良宗介が『赤』について連想していたのか。
答えは簡単。今彼の目の前に、赤いスープが出されているのだ。
しかも、今や彼の上官となったカリーニン少佐お手製のものである。
「以前お前には話をしただけだったからな。妻の味を再現するつもりで作った。味わってみてくれ」
カリーニンは彼にはまったく似合っていない真っ赤なチェックのエプロンを身につけて、普段見せないような穏やかな笑顔を見せている。
『ボルシチ』という料理はかなめにも作ってもらったことが無い。だが彼女のおかげで、最近、宗介は料理を食べるのが楽しみになってきていた。なので喜んでスプーンを取り、スープを一さじすくい、口に含む。
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
次の瞬間には目の前がブラックアウトし、いつかと同じくカシム・・・宗介の意識は闇に沈んだ。
『赤』
それを見て俺が連想するもの・・・
トマト
人の血
炎
そして・・・
ボルシチ
あれはNBC兵器にも匹敵する。
(終)
あとがき
どうもyoshiです。
プルメタさんには二作目となる話です。
「カシムとカリーニンの出会い」
おそらくどのサイトでも使われているネタでしょうが、あえて使わせていただきました。
yoshiは最後の数行が書きたかっただけですから・・・・(爆死)
それではまた次回、機会がありましたら。
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