「その色、相良君に似合いそうじゃない?」

「えっ、あたしは別にそんなつもりじゃ・・・・。」

 

 

君と過ごした日々はまぶしく輝く

 

 

「いつも、コートも着ないで寒そうだもんね。」

「違うったら。どーしてあたしがあんなやつにマフラーなんか編まなくちゃなんないのよ」

 

 

ともにみた太陽のようで

かわしたあの笑顔のようで

 

 

「そっかー、かなちゃんマフラー編むつもりなのか・・・。」

「違うわよっ、ちょっとキョーコ、聞いてる?」

 

 

でも、時は流れ もう戻らない

 

 

 

 

 

 

 

「千鳥の部屋のハムスターの世話をしてほしい」

 

 

 

 

 

 

 

悲しみも怒りもいとおしさも全て

 

 

『彼女の世界・私の世界』

 

 

あの日。

運命の日。

あたしの大事な親友は姿を消した。

そしてその後、相良君もいなくなってしまった。

 

「千鳥は必ず連れ戻す。」

 

たった一つの約束を私たちに残して。

 

怪我をして入院していたあたしは、その場面を知らない。

でも、みんなから聞いた話からなんとなく想像はできる。

 

嫌悪とも敵意とも取れるクラスメイトたちからの視線を一身に浴びながら、全てを語る相良君。

己の出自。

これまでの過去。

そして、この学校を襲った災厄の真相。

平穏なはずの学校を戦場にした責任は己一人にあると、彼女は何も悪くないのだと真っ直ぐな瞳で言い切った。

 

 

 

 

私はあの時、相良君を攻めることしかできなかった

必死に助けようとしてくれた相良君を。

あたしが言葉を紡ぐたびに、相良君の顔がこわばっていくのに気付いてたのに

あたしは言葉を止められなかった。

 

 

彼に、彼女に罪がなかったとは思わない。

彼らのせいで、相良君とカナちゃんのせいでみんなの命が危険に晒された。

あたしたちは何も知らされずに死にそうな目に遭った。

 

でも、本当にそうなのかな?

あたし達はあの二人に騙されてたのかな?

 

修学旅行でハイジャックされたときも

クリスマスにシージャックされたときも。

あたしたち、笑ってたよね?

戦場だって現実感これっぽっちもなくて、自分の命が危険に晒されているなんてかけらも考えてなかったよね。

でも、考えてみたらあの時、相良君どこに居た?カナちゃんは何をしてた?

あたし、知らない。

どうして順安の飛行場からカナちゃんだけ別に帰ってきたの?

どうして相良君はあの豪華客船に乗らなかったの?

 

紛争地域出身の不思議な転校生としっかり者の学級委員

ハチャメチャな日常だったのに、あたしたち、楽しかったよね。

時々、相良君が居なくなって、カナちゃんがため息ついてたの、あたし知ってたのに。

相良君がカナちゃんの守るとき、いつも真摯な瞳をしていたのに、あたし、気付いてたのに。

自分の周りの平穏を疑おうともしなかった。

 

守られていたんだと思う。

あたしたちが傷つかないように、何も知らないままでいられるように。

あの二人が必死に守ってくれたんだと思う。

 

 

 

 

一週間に一度、あたしはカナちゃんの部屋を訪れる。

あの時、相良君に渡された鍵を使って。

ハムスターは家で面倒を見ているから、あたしがするのは部屋の空気を入れ替えるだけ。

ゲームをやってよく遊んだリビング。

カナちゃんがおいしい手料理を振舞ってくれたキッチン。

お泊りで夜通ししゃべり明かしたカナちゃんの部屋。

あの日から時を止めたまま、手付かずのまま残ってる。

 

 あたしはそっと、カナちゃんの部屋に入った。

 机の上に無防備に置かれたかばんの中身は、生徒会選挙の日のままの時間割。

 壁に掛けられたかカレンダーにはクラスメイトの誕生日の日におおきく花丸がついてる。

 カナちゃんの部屋

 カナちゃんの日常

 あたしの部屋となんら変わらない、あの日までのカナちゃんの世界。

 

 でも、異質なものもあった。

 本棚の中に小説やマンガにまぎれて、女子高生が読むような雰囲気じゃない分厚い本がいくつかあった。

 わけの分からない奇妙な化学式や、辞書を引いても意味が乗ってないような英単語の羅列が殴り書きしてあるメモが、机の周囲にいくつか落ちてた。

 

 あたしの知らないカナちゃんの世界。

きっと、あたしの入り込めない、カナちゃんと相良君の世界

もう、届かないのかな?

あの二人は遠いところへいっちゃったのかな?

 

 

ベッドの下に何かあった。

近づいて、取り出してみる。

 

編みかけのマフラーだった。

 

深い青色の毛糸は見覚えがあった。

彼氏に手編みのものをプレゼントするって言ってた友達と、一緒に選びに行ったときカナちゃんが手に取ってた毛糸。

「相良君に似合いそうな色だね」

あたしがそう聞いたら真っ赤になって戻してた。

きっと後から買ったんだ。

カナちゃんそういうところ素直じゃなかったから。

 

相良君に渡すつもりだったのかな。

たぶんバレンタインだよね?

ちゃんと、ここに居るつもりだったんだよね?

馬鹿みたいに笑って、相良君のこと怒って、そんな毎日が続くんだってカナちゃんも思ってたってことだよね?

 

 

あたしは、そっと、毛糸を元の位置に戻した。

ベランダに出て、空を見上げる。

カナちゃんは今どこに居るんだろう

カナちゃんが居るところの空も、ここみたいにきれいな青空が広がっているだろうか

 

 

 

ねぇ、カナちゃん。

あたし、ちゃんとカナちゃんのこと待ってるから。

相良君と一緒に帰ってくるの待ってるから。

 

だから許してほしい。

何にも知らない振りしてたの。

カナちゃんが話してくれるまでって甘えてたの。

ほんとはあたしから聞かなきゃいけなかったのに。

 

ねぇカナちゃん。

カナちゃんに何があっても、

カナちゃんの世界がどんなに大変でも

あたしはカナちゃんの味方だから

ここもちゃんとカナちゃんの世界だから

帰ってきて

あたし、ううん。

あたしたちみんなで待ってるから。

 

 相良君と、一緒に……ね。

 



▼ブラウザを閉じてお戻りください

▼素材はこちらからお借りしました。


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送