第一話・月夜の妖狐


「むぅ、すっかり暗くなってしまったな…」

ここは江戸の西、調布の町のはずれである。

町のはずれはもう野原である。そして時間は人がもう寝始める頃。

その野原の中の路を暗いなか歩いている男の名は相良宗介。

宗介の着ている服はよれてはいるが、大小の刀を腰にさしている。そう、侍だ。

「妖怪でも出そうな雰囲気だな」

確かに妖怪が出そうな雰囲気である。

宗介の持っているちょうちんは遠くまでは照らせない。


―――――ガサッ…ガサガサッ


「!!?…」

物音が聞こえた。右の野原の方だ。何か動物だろうか。

ちょうちんを野原のほうへ向けるが何も見えない。もっと向こうのはずだ。

「おい、誰かいるのか?おい?」

宗介は野原の中に入っていく。

もし動物だったら別にいい。追い払うだけだ。

もし人間で、そいつが襲ってくるのなら斬ってやる。刀の腕には覚えがある。


―――――ガサガサッッ


近くから物音が聞こえた。宗介はそちらにちょうちんを向ける。

「!!」

そこには女がいた。長い黒髪の少女が寝転んでいた。

宗介はすぐに駆け寄ってその少女を助け起こそうとする。

「おい、どうした!?何でこんな所にいる?」

「ん?んにぃ…?」

その少女はしばらく宗介の顔を見ると、

「…だ、誰よ、あんた!?っていうかここどこよ?ねえ、どこよ!?」

その黒髪の少女は宗介に迫ってきた。肩をがくがく揺らしてくる。

「ちょ、ちょっと落ち着け!お、おい!?ああ!」

「ああ!?」

宗介の手からちょうちんが飛んでいった。そして地面に落ちるとともに火は消える。

ちょうちんが消えたことでその場は月明かりだけになった。

「ちょっとあんた何してんのよ!真っ暗になったっちゃったじゃない!」

がくがくがく

「俺のせいでは… ないではないか…!」

がくがくがく

「うるさいわよ!もう!もう!」

がくがくがく

「落ち着け!落ち着けといっているだろう!」

宗介はすごい剣幕で怒った。少女はひるんで後ろにしりもちをつく。

と同時に少女の頭から何かぴょこんと飛び出した。

「あ、ご、ごめんなさ…」

「お、おまえ何だ?何なんだそれは?」

宗介は少し震えた指でかなめの頭を指差す。そこにはふさふさした三角形が二つあった。

「あ…、これ?これは耳だけど…」

「みみ!?じゃ、じゃあお前はいったい…?」

「わたし?わたしは、かなめ。妖狐のかなめっていうの。」

「よ、妖狐だと…!?」

宗介は目を見開いてかなめを見る。

「そう。びっくりした?ふふ、はははは!」

「な、何がおかしい!?」

「だってさっきはあんなに怒ってたのに、今はそんな顔してんだもん。」

そう言ってまたかなめは笑い出す。

「わ、悪かったな!」

「まあ、そんなに怒んないでよ。そうだ、ちょうちんの火がつかないと家まで帰れないよね。私が火をつけてあげる!」

そういうとかなめは空中に手のひらを突き出した。

すると突然手のひらの上に緑の炎が浮いて出た。

かなめはその火をちょうちんのなかにいれる。

「はい、これで大丈夫!」

「あ、ああ・・・」

宗介は炎が出たときからちょうちんを手渡されるまで、口が開きっぱなしだった。

ちょうちんは緑色に光り、ろうそくの炎とは比べ物にならないほど辺りを照らした。

そのちょうちんを受け取った宗介は立ち上がる。

「あ、そういや、あんたの名前聞いてなかったね。なんていうの?」

「俺か?俺は宗介、相良宗介だ。調布に住んでいる。」

「調布?じゃあこの近くだ。じゃあさ、あんたの家に泊まらせてくれない?」

「お、俺の家にか?お前の家は近くにないのか?」

「ま、まあね。そんなとこ」

かなめの目は宗介から逸らされている。

「おい、本当か?」

「ほ、本当よ!ほら、はやくあんたの家に行こう!別にいいんでしょう?」

「ま、まあ構わないが…」

「じゃあ決まり!ひさびさにお布団で寝たかったのよね〜!さ、はやく行こう!」

「あ、ああ、分かった…」






そして二人は月夜の下、調布の宗介の家へ向かった。







▼ブラウザを閉じてお戻りください

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送