季節外れのファイアワークス



 夕暮れの泉川商店街。東京にも、確実に秋の気配がやってきていた。

魚屋には秋刀魚が、八百屋には栗や茄子が、遠くからは石焼き芋を売る屋台の声が響いてくる。

その商店街を、三人の学生が会話をしながら下校していた。

「はぁ……もう秋ねぇ……」

 真ん中を歩いていた長髪の女子生徒、千鳥かなめがため息をつくようにつぶやいた。

「そうだな」

 その右を歩いていた、むっつり顔にへの字口の男子生徒、相良宗介が、短く同意する。

「秋だねぇ……」

 かなめの左を歩いていた、おさげ髪にトンボメガネの女子生徒、
 常盤恭子が、秋風に舞う木の葉を眺めながらかなめに同意した。

「あ、そうだ! ねぇ、知ってる? カナちゃん」

 ふと思い出したように恭子が尋ねた。

「何? キョーコ、なんか面白いことでもあるの?」

 かなめは気だるげに訊き返した。

「あのね、今度の日曜日、この近くの川原で花火大会やるんだって!」

「花火大会? なんでまたこんな時期に。もう秋よ?」

「うん、なんかね、今年、隣町の花火大会が雨で中止になったらしくて。
それで来年にまわすよりは今のうちにやっちゃおうって。結構大規模みたいだよ。出店も出るらしいし」

「ふーん。面白そうね。別に今週末は予定もないし、行こうかな」

 かなめは基本的に祭り事が好きなので、こういう話を聞くと心が踊ってしまう。

「でしょ? 相良君も一緒に行かない?」

恭子は、黙り込んで何やら考えていた宗介にも声をかけた。

「うむ、別に予定はないのだが……その『ハナビ』というのは何なのだ?」

「あれ、ソースケ、花火知らなかったの?」

「ああ、教えてくれ」

「う〜ん……」

 かなめは説明しようと思ったが、また誤解されると厄介なので、

「やっぱり教えてあげない。見てのお楽しみって事で♪」

 イタズラっぽく笑った。宗介は複雑な表情で「むぅ……」と唸っていたが、しぶしぶ納得した。



 そして、日曜日の夕方、泉川商店街前。

「う〜し、全員いる〜?」

 浴衣姿のかなめが、集合したメンツに声をかける。

「いると思うよ〜」

 同じく浴衣姿の恭子が答える。

「全員そろっている、問題ない」
 
宗介も答える。

「花火なんて見るのは久しぶりです……誘ってくださってありがとうございます」

 これ以上ないほど和服の似合う黒髪の美少女、美樹原蓮が丁寧にお辞儀をしながら礼を述べる。

「フム、私も花火は久しぶりだな」

 休みにもかかわらず白ランに扇子という、学校と同じ格好をした林水敦信が、
 真鍮ぶちの眼鏡を人差し指で押し上げながらつぶやいた。

「いや〜、いいねぇ。やっぱり大和撫子は浴衣だよ! たまんねぇ〜。風間。しっかりデジカメに納めとけよ」

「う、うん」

 オノDこと小野寺孝太郎と、風間信二も来ていた。

「よ〜し、それじゃあ、しゅっぱ〜つ!」

 かなめが元気良く言った。


「うわ〜、結構人いるねぇ」

「ホント、すぐにはぐれそう」

人の波を見てかなめと恭子はつぶやいた。

「みんな〜、ちゃんと付いてきてる〜?」

 かなめが振り返って訊いた。

「千鳥」

 返事は宗介だけだった。

「すまない、あっという間に見失ってしまった。俺としたことが……」

「言ってるそばからだね、カナちゃん」

「……はぁ」

 かなめは大きなため息をついた。

「まぁ、オノDと風間君はいいとして、林水センパイとお蓮さんはちょっと心配だなぁ」

「え〜、そう? なんかあの二人、似合ってない?」

「まぁ、確かにそうではあるけどね。二人ともどこかぬけてるし、やっぱり探そう。

 まだ花火が始まるまで時間があるし」

「了解した、祭りという奇襲の絶好の機会に、会長閣下を襲う他校の工作員が潜んでいるかもしれん、ここは――」

スパンッ

袖口から現れたハリセンが、宗介の頭をはたく。

「……違うでしょ。行くわよ」

 宗介を引きずりながら、かなめ達は人ごみに入っていった。



「……とは言ったものの、こんなに人が多いんじゃ、そう簡単には見つからないわね」

器用に人の波をすり抜けながら、かなめがぼやいた。
 確かに、普段とは比べ物にならないほどの人である。見つからないのも無理はない。

「カナちゃん、どうしよう?」

「どうしよう、って……先輩の格好は目立つから、誰かが見てるかも……あ!」

何かを見つけたかなめは大きな声を出した。

「千鳥、どうした? 会長閣下がいたのか?」

「いや、そうじゃないんだけど、あそこの店にいるのって、一年の備品係の……」

「佐々木か」

 宗介が答える。以前宗介は佐々木とプラモ談義に花を咲かせたことがあり、それ以来、結構仲良くしていた。

「そうそう、佐々木君。でも、あの店で何やってんだろう?」

「俺が見てこよう」

「あ、お願い。じゃ、あたしたちはなんか飲み物でも買って来るから」

「了解した」

 宗介はそう言って、佐々木がいる出店に向かった。

「佐々木、どうした」

「あ、相良先輩、見てくださいよ、この店!」

 宗介に声をかけられた佐々木は、嬉しそうに店の品を指差した。そこには、Rk-92<サベージ>をはじめ、
<ブッシュネル>や、<九六式>、果ては、M9<ガーンズバック>まで、様々な種類のASのプラモデルを売っていた。

「知り合いにタミヤの関係者がいて、その人から譲ってもらったんだって。見てよ、このクオリティの高さ!」

 そういって、佐々木は嬉しそうに<ガーンズバック>のプラモを宗介に見せた。
確かに、宗介も驚くほどのクオリティの高さだった。

以前、佐々木が宗介に見せたものより、よりディテールが細かくなっている。

「ね、すごいでしょう?」

「ほらほら、あんまり売り物を触っちゃダメだって」

 店の男がプラモをいじる佐々木に声をかけた。その声に、宗介が首をかしげる。

(? この声、まさか……)

「あれー? ソースケじゃん。何やってんの、こんなとこで?」

 聞きなれた軽薄そうな声。宗介は店の男を見た。

金髪碧眼、浴衣が妙に似合っているその男、クルツ・ウェーバーは、親しげな笑みを宗介に向けた。

「それはこっちの台詞だ」

 宗介は、佐々木に聞こえないように、クルツに顔を近づけて話した。

「任務はどうした?」

「今なんにもねーよ。いや〜、暇で暇で。それよりなんだよ、お前、かなめとデートか? あん?」

 下品な笑みを浮かべながらクルツは宗介にたずねる。

「いや、会長閣下を探している。人ごみで見失ってしまった」

「ふ〜ん」

「それよりクルツ、お前だけなのか?」

「? ああ、いや――」

「あっら〜、ソ〜スケじゃな〜い、な〜にぃ〜? かなめとデ〜ト〜?」

もう一つ聞きなれた声が、クルツの言葉をさえぎって宗介の背後から聞こえた。

「……姐さんも来てるんだ」

 マオがビール瓶を片手にふらふらと宗介に近寄ってきた。

「こらこら、ソ〜スケ! 健全な高校生がこんなところをうろうろしちゃいか〜ん!」

 完全に酔っているようである。近くに寄るだけで、酒に弱い人なら酔ってしまいそうである。

「うっ、マ、マオ……あんまり近づくな、酒のにおいが……」

「なに〜? 上官に向かってその口の聞き方は何だ〜?」

「わ、分かった、だから離れてくれ」

「ったく、何よ〜、つれないわね〜」

 宗介はマオを何とか引き離すと尋ねた。

「それはそうと、二人とも。制服を着た白髪にオールバックの男を見ていないか? 探しているんだが」

 マオとクルツは顔を見合わせた。

「俺は見てないけど。姐さんは?」

「見てないわよ〜」

「そうか。じゃあな」

 そういうと宗介は人ごみの中に戻ろうとする。

「おいおい、ちょっと待てよ。せっかく会ったんだし、面白そうだから俺も連れてってくれよ」

「そうそう、あたしも連れて行きなさ〜い。これはじょ〜かんめいれいよ〜」

 ろれつの回っていないマオを見て、宗介は一瞬考えたが、半ばあきらめたように言った。

「どうせ反対しても来るだろう。別に良いが、あまり目立つようなことはするなよ」

「分かってるって。あ、でも、この店どうすっかな……」

「あの〜」

 先ほどから存在を忘れ去られていた佐々木が恐る恐る声をかけた。

「もしかして、皆さんお知り合いなんですか?」

「まあな、親戚だ」

 宗介が即答する。

「あ、そうなの……」

 宗介の妙な迫力に圧倒されつつ、佐々木は納得する。

「あ、そうだ! そこの君、ここの店番やってくんない?」

 クルツが佐々木に言う。

「え?」

「頼むよ。売り上げの送り先は……」

「さ〜て、行くよ〜」

 マオに引きずられ、クルツの言葉は人ごみに消えていった。

「……どうしよう」

 佐々木はプラモに囲まれ一人ぽつんと立っていた。



「あ、相良君たち戻ってきたよ。お〜い、こっちこっち」

 宗介を見つけた恭子は、大きく手を振った。

「すまない、遅くなった。佐々木は会長閣下には会っていないようだ」

「ふ〜ん、そっか。どうしよう……ん? ソースケ、後ろに誰かいるの?」

「ああ、まあな……」

 歯切れの悪い返事をする宗介の後ろから、クルツとマオが顔を出した。

「よっ、カナメ。元気?」

「ク、クルツ君!? どうしたの?」

「暇だったんでね。それより、人探してるんだって? 俺たちも手伝うよ」

「ありがと。ところで、マオさんどうかしたの?」

 かなめは、さっきから黙りっぱなしのマオに声をかけた。

「……だいじょ、うっ……気分悪〜」

「ああ、気にしなくていいから。姐さん、ちょっと飲みすぎただけ」

「あ、そう。えっと、キョーコは知ってるよね? クルツ君とマオさん。ソースケの知り合い」

「うん、知ってるよ。それより、五人でまとまって探すのも効率が悪いから、二手に分かれない?」

「う〜ん、そうね。じゃ、あたしは……」

「あ、あたしはクルツさんと行ってくる。いいでしょ、クルツさん?」

恭子は意外な提案をした。

「え、いいけど、何で?」

 不思議そうな顔をするクルツに、恭子はなにやら耳打ちをした。
 それを聞いたクルツは、なにやら納得したようにうなずくと、

「よし、分かった。それから、姉さんも心配だから連れて行くか」

 そういって、マオに肩を貸す。

「うん、というわけで、カナちゃんは相良君と探してきて」

「え、あ、ちょっと……」

「見つけたら携帯で連絡するから。じゃあね〜」

そういって、三人は早々と人ごみにまぎれていった。

 取り残された二人はしばらく黙っていたが、しばらくしてかなめが口を開いた。

「……まぁ、じっとしててもしょうがないし、行こっか?」

「ああ、分かった」

宗介も同意して、二人は歩き出した。



 そのころ蓮と林水はというと、近くの川原に腰を下ろしていた。

「……はぐれてしまいましたね」

 川の水面を見つめながら、蓮が口を開いた。

「ふむ、そのようだな」

 林水も同じように水面を見つめながら同意した。

「すいません、本当に。私が皆さんとはぐれてしまったから、先輩まで……」

「気にすることはない。君を一人にするのは心配だからな」

「そんな……」

 顔を真っ赤にして蓮がうつむく。

「あの……こういうお祭りって、お好きなんですか?」

 蓮がおずおずと尋ねる。

「実際のところ、あまり好きではないな」

 相変わらず水面を見つめたまま林水が答える。

「え? では、どうして……」

「理由……そうだな、君のためだ」

「え?」

 思わず連は聞き返す。

「君には、いつも書記として大変な量の仕事を任せている。

たまには気分転換が必要だと思ったのでな……余計なことだったかな?」

 林水は、人差し指で眼鏡のブリッジを持ち上げ、蓮の顔を見つめた。

「い、いえ、そんなことありません……嬉しいです」

 蓮のほうは、林水の言葉が嬉しくて顔を見るどころではなく、前よりもさらに顔を赤らめて深くうつむいた。

「……美樹原君、大丈夫か? 顔がすごく赤いのだが。熱でもあるのではないか?」

「あ、ほ、本当に大丈夫です! 本当です!」

慌てて否定する。しかし、蓮はだんだん体が火照り、思考が低下していた。

「す、すいませんね、本当に。私、何言ってるんでしょう……か?」

蓮は林水のほうを見た。しかし、林水が腰を下ろしていたはずの場所には誰もいなかった。

「美樹原君、どこを見ているんだね」

「え?」

蓮が前を見ると、林水の顔がすぐそこにあった。

「せ、先輩!? どうされたんですか!?」

「動かないでくれ」

 慌ててのけぞろうとする蓮の肩を、林水はしっかりとつかむ。

「あ、はい……」

 蓮は素直に応じる。

「よし」

林水の顔が段々と近づいてくる。

(……こ、これはもしかして、一般的に言う……せ、せ、接吻というものでは!? せ、先輩の顔が……)

 蓮は、そのことを考えた瞬間、何がなにやら分からなくなっていた。

(し、しかし、こういうものは、こう、結婚するお相手とするもので……でも私は先輩が……
いやいや、こういうのはもっと手順というものが……って、そういう問題ではなくて……あ、ああ……)

どんどん林水の顔が近づいてくる。蓮は直視できずに、目を閉じた。

 フッ

 蓮の顔に林水の顔が触れた。蓮は額からひんやりとした感覚を感じた。

(あ、あら……?)

 蓮はうっすらと目を開く。林水と目があった。

「すごい熱だ、やはりこれは帰ったほうがいいのでは……美樹原君?」

 林水は、蓮と額を合わせたまま怪訝そうな顔をする。

「ふ、はぁ〜」

 蓮は全身の力が抜け、林水にもたれかかった。緊張が解けたのと、
 今になって林水の顔がこんなにも近くにあることに気づき、頭が真っ白になってしまったのだ。

「美樹原君? しっかりしたまえ、美樹原君!?」

 すやすやと寝息が聞こえる。どうやら寝てしまったらしい。

「……フッ」

 林水は微笑すると、蓮を抱えて立ち上がり、川原を後にした。



 宗介とかなめは、いまだに林水と蓮を探して人ごみの中を進んでいた。

「……見つからないね。センパイもお蓮さんも」

「……ああ、だが……」

 宗介は言葉を切り、かなめのほうを見る。

「君の寄り道も、少し多すぎると思うのだが」

 かなめは自分の持っているものを見る。右手にはわたあめ、左手にはりんご飴。
 腕にはギリギリまで金魚の入った袋が2つも吊り下げられていた。

「うっ、わ、悪かったわよ……あ、あれ、センパイじゃない? 誰か抱えてる……もしかして、お蓮さん?」

「そのようだな」

 二人は林水と思われる、浴衣姿の女性を抱えた白ラン姿の男を見ながら言った。

「お蓮さん、どうしたんだろう……何かあったのかな?」

「分からん、だが、会長閣下が一緒なら、問題はないだろう」

「そうね、なんかここで声かけるのもヤボだし。一応キョーコにはメールしておくかな。
 ま、せっかくのお祭りなんだから、しっかり楽しまなきゃ、ね?」

「そうだな」

宗介はうなずくと、近くのかわらに目をやった。

「ところで千鳥。あの川原、やけに人が集まっているが、何かあるのか?」

「ん? ああ、アレね。花火を見るために集まってんのよ」

「前にも言っていたが、その、『ハナビ』というものは、いったい何なんだ?」

「ふふ、見てのお楽しみって言ったでしょ。
 それより、まだ始まるまで時間があるから、あそこで金魚すくいしよっ♪」

「まだやるのか? もう3度目……って。待て、千鳥。引っ張るな」

 宗介は金魚すくいの出店の方に引きずられて行った。



(……ん、ここは?)

 蓮は、和室の布団の中で目を覚ました。

「気がついたかね」

 枕元で林水の声がした。

「あ、あの、先輩、ここは……?」

 身体を起こして林水に尋ねる。

「荒羽場神社だ。君が倒れてしまったのでな。
 神主さんに無理を言って布団を貸していただいたのだが……調子はどうかな?」

「あ、はい。大丈夫です……本当にすいません、私、先輩に迷惑をかけてばっかりで……」

 蓮は本当に申し訳なさそうにうつむいた。

「いや、そんなことはない」

「いえ、無理されなくていいんです。本当に私が悪いんですから……」

 林水は一瞬どうして良いか困ったような顔をしたが。
 眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げ、障子のほうを見ながら小さな声でつぶやいた。

「……私は君と、生徒会の仕事ではなく、こうして一緒にいられることが嬉しいのだよ……」

「え? 今、なんておっしゃいました?」

 聞き取れなかった蓮は、首をかしげて聞き返した。

「フッ……いや、なんでもない。忘れてくれ」

 林水は軽く肩をすくめ、そう言った。

 と、そのとき、林水の顔が、赤い光に染められた。その数瞬後、

 ドン ドドン……

 という音が、遠くから聞こえた。

「花火……始まったんですね」

「縁側に出て見るかい? いや、まだ動かないほうが……」

「いえ、もう大丈夫です」

 蓮はそう言って布団から出た。

 ドドン ドン ドドン……

 音と光が、秋の夜空を駆け巡る。

「綺麗ですね……」

 蓮がつぶやく。

「……うむ、そうだな……」

 林水もそれに同意する。

 二人は、漆黒の夜空を様々な色に染め上げる花火を、ずっと見つめていた。



 同じころ、かなめと宗介。

 ドン ドドン……

「え、もう始まっちゃったの!? じゃあ、おじさん。これいいから! ソースケ、行くわよ!」

「わ、分かった」

 金魚すくいに夢中になっていたかなめは、慌てて出店のおじさんに
金魚がいっぱいに入ったボウルを返すと、宗介の腕をつかんで走った。


 ドドン ドン ドドン……

「はあっ、はあっ、はあっ……な、なんとか場所は……確保できたわね……」

 川原で比較的空いているところを確保すると、かなめは息を整えながら言った。

「はあっ、はあっ……そのようだな」

 宗介もだいぶ息が上がっている。

「とりあえず……座ろっか?」

「そうだな」

二人は、腰を下ろして、空に上がっていく花火を見つめた。

「……ところで千鳥。この、今あちこちから上がっている信号弾は何だ?」

宗介は、真面目な顔で言った。

「……何言ってんの?」

 かなめは、わけがわからないといった表情で、宗介の顔を見た。

「……もしかして、違うのか?」

かなめはあきれた表情でため息をついた。

「違うわよ。これが『花火』なの。金属の粉と火薬を混ぜて、火をつけるとあんなふうになるのよ」

「なるほど……『ハナビ』と言うのは、これのことだったのか……」

宗介は再び花火に目をやってつぶやいた。

「……あんまり意外じゃなかった?」

「……まぁ、そうかもしれんな」

「そっか……」

 かなめは残念そうな顔をして空を見上げる。花火を見ながら、かなめは宗介に言った。

「でも……綺麗でしょ?」

「ああ、そうだな」

 宗介は素直に同意した。

 それからしばらく、二人は何も言わずに花火を見ていた。そして、ふと、宗介はかなめのほうに目をやった。
花火の光に照らされるかなめの横顔は、普段のそれより、ずっと大人っぽく見えた。

思わず宗介は顔を赤らめ、目をそらす。

「ん? ソースケ、どうかした?」

視線に気付いたかなめが、宗介のほうを向く。

「い、いや、なんでもない」

宗介は、かなめと目を合わせないように答えた。

「あ、もしかして、あたしの顔見てたの?」

図星で何も言えない宗介。

「……ありがと♪」

 かなめは笑顔で言った。宗介はその笑顔を見てますます顔を赤らめる。

「何よ〜、人がせっかく素直に礼言ったのに。このっ、このっ」

「や、やめ、千鳥……」

 小突かれた宗介は、反撃できずに、されるがままだった。



 そして、花火も終わり、辺りに再び静寂が戻った。花火を見ていた人も、ぽつぽつと帰り始めている。

「終わったね……」

「そうだな、常盤達と連絡を取って、一度合流しよう」

「そうね」

 かなめは携帯を取り出して、操作した。



「……ふぅ、それにしても、大変な花火大会だったね、カナちゃん」

再び泉川商店街前に集合してから、恭子が言った。

恭子はあれから小野寺と風間を見つけ、一緒に花火を見ていたらしい。クルツとマオは途中で帰ったそうだ。

「そうね……」

「……ねぇ、カナちゃん?」

 恭子が不気味な笑顔を浮かべてかなめを小突く。

「な、何よ、キョーコ?」

「相良君とどこまで行ったの〜? 二人っきりだったんでしょ〜? A? B? それともC?」

「な、なっ、何言ってんのよ! あいつとは別に」

「Gだ」

慌てて否定するかなめの後ろで、宗介が平然と答えた。

「そ、そんなところまで……相良君、積極的ッ!!」

「ちょっ、ソースケ!? あんた意味分かってんの!?」

驚愕する恭子と、顔を真っ赤にして慌てるかなめを見て、
 宗介は、表情一つ変えずに、ポケットから箱型の端末のようなものを取り出した。

「肯定だ、このGPSでいうとG-4ポイントに当たる。だいたい川原の辺りだな」

「……あんた、そんなもの持って来てたの?」

「そうだ、ちなみに、はぐれても大丈夫なように発信機も持ってきていたのだが……」

「……まさか、みんなにコッソリ付ける気だった?」

「肯て――」

 スパンッ

 久々にかなめのハリセンが宗介の頭を捕らえた。

「……何をする、千鳥」

「やかましいっ! そういうことを考えるんじゃないわよ! くぬっ、くぬっ」

「や、やめてくれ、千鳥」

「な〜んだ……あれ? そういえばお蓮さんたちは?

 見つかったってメールはもらったけど、それから一緒じゃなかったの?」

「ん? ああ、なんか声かけづらかったから」

 かなめは宗介を蹴たぐるのをやめて、答えた。

「……もしかして?」

 恭子の目が怪しく光る。

「キョーコ、本当にそういうの好きね……まぁ、本当のところ、よく分からないけど。
あんまり変な噂とか立てないようにね」

「はいはい。それじゃ、もう遅いし、そろそろ解散しよっか?」

「うん、そだね。じゃ」

 かなめ達は解散して、それぞれの家路についた。


 その次の日、蓮と林水は、普段通り学校に来ていたが、なぜかみんなの見る目がいつもと違い、
二人が一緒にいると、ときおり『お幸せに♪』などと声をかけられた。

そして、その度に蓮が『あらやだ……』などといって頬を染めるので、その噂はしばらく続いた。 

それと、あのあと佐々木が、プラモをこっそりと持ち逃げしたことは……言うまでもないだろう。

<季節外れのファイアワークス おわり>





2003/09/28 イソギュ作

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