『 命の大切さ 』
「わぁ……。」
陽気もすっかり春に移り変わったある日の昼下がり。かなめと宗介は川原へ散歩に来ていた。
今日は実に天気の良い日で、まさに散歩日和だったのだ。
最近のかなめは家に閉じこもってばかりいたので、たまにはと自分から宗介を誘ったのだ。
いざ川原に来てみると犬の散歩やら、小さな子供をつれた家族連れ…男女のカップル……
とにかく沢山の人が来ていた。
「みんなあたしたちと同じ理由かな?」
「だろうな。今日は実に気候がいい。特に君は気持ちがいいのではないのか?」
「うん…。久しぶりに外に出たからね。」
土手の所から、もう少し川の方へと行ってみようと歩き出すと…まわりの人たちが二人を凝視してくる。
かなめにはその視線が辛かった。そんな理由があったせいで家に閉じこもりっきりになってしまったのだ。
本当に必要な時以外は出かけなくなってしまった。
実際家にいるかなめはいつもと変わりなかったのだが…宗介は心配でならなかった。
時々恭子が遊びに来てくれて楽しい話をしていたのだが…帰り際……………。
『カナちゃんなんか元気ないみたいだけど、あたしの気のせいかな?』
などと言われてしまってはさすがの宗介もますます心配になってしまう。
そんなある日、かなめが散歩に行こうと言いだした。初めは驚いたが、
せっかく外に出る気になったのにと思い、今こうして川原に来ている。
「んー。水はまだちょっと冷たいね。」
「落ちないように気を付けてくれ……。」
「そんなドジしないわよ…テッサじゃあるまいし。」
しばらく手を川につけたまま動こうとしないかなめ。
「かなめ?」
不審に思って声をかける宗介。気分がわるいのだろうか……。そうだとしたらすぐにでも家に帰るべきだ。
「具合がわるいようなら…早く帰ろう。」
「……ねぇ、ソースケ……。」
「なんだ?」
「あたしたち、わるいことしちゃったのかなぁ……。」
かなめの外出しなかった理由…まわりの不審な視線……………。
それは全てかなめの腹に原因があった。
かなめは今………………………………妊娠している。
「……………命を育むことのどこがわるいことなんだ。たしかに俺たちには年齢が若すぎるかもしれない。
しかしそれもちゃんと責任をとれば問題はないはずだ。それに………。」
「それに…?」
「命を絶つことの方がよっぽどわるいことだろう……。」
「ソースケ……。」
今までどれだけの人をこの手にかけてきただろうか…。考えることは出来ない。
思い出すことなんて出来ない。なぜなら数え切れないから。
過ちとは言わないが…それだけのことをしてきた自分が…今度は命を造り出そうとしている。
育てようと……。
「ソースケは…それが楽しくてしてたわけじゃない……。自分のため、人のためにしてきたこと…。
誰かがしなければもっとひどいことになってたかもしれない。それをあんたがやった…。
もちろんそんな理由で済まされるわけじゃないけど…。」
「かなめ……。」
「けど…ソースケは、ちゃんと命の大切さを知っている。だって、何度もあたしを助けてくれたし…
それにこれからはこの子も守ってくれるんでしょ?」
「ああ。」
「来年はさ…家族三人でここに来ようね…。」
「そうだな。」
どこでどんな風に生まれ、育ったとしても…命とは平等に存在する。平和な日本でも…戦争の絶えないところでも。
幾度となく人の死を目にしてきた宗介だからこそ、その大切さを誰よりもわかっているのかもしれない。
たとえ…人を殺したとしても……………。
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