男湯から聞こえる『あぁー』や『くぅー』と言う声にかなめは耳を傾けてしまう。
それはその声が誰の声かかなめにはわかってしまうからだ。


  バカ・・・いくら気持ちいいからってそんな声をださなくったって
  黙ってつかってなさいって言うの


しかし、ここから叫んで注意するわけにもいかずかなめは知らないふりをして湯船につかる。
うっすらと笑みを浮かべながら。

すると男湯から今度は会話が聞こえてきた。


『お兄さん、銭湯は始めてかい?』

それは聞くからにおじいさんの声だった。

『あ・・・・・はい』
『そうかい、そうかい。気持ちいいだろ?』
『はい』
『こんな寒い日はゆっくりとつかって体を温めるといいよ』
『はい』
『ところでいい体してるね』
『自分のことですか?』

その問いかけに返事をしたのは宗介だった。

『あぁ、そうだよ。手足は長いし体についている筋肉はまったく無駄なものが無い。
 わしから見ても惚れ惚れする体だよ』
『ほ・・・・惚れ惚れ・・・・?ですか?』

宗介はとんでもない言われあせり少しその老人から離れようと横にずれる。

『逃げなくていい。わしは男には興味が無いからな』

というと『わっはっはっ』と大きな声で笑った。

『だからあんさんモテルだろ?』
『そんなことはない。逆に嫌われている』
『うそおっしゃい。今女湯にいる子は彼女なんじゃろ?』
『え・・・いや・・・・彼女はそんな・・・・・』

宗介はあわてて否定するがおじいさんには通じない。

『なに言ってるんだい。銭湯へきてあんな会話をしてるんだから隠さなくてもいいよ』
『いや・・・嘘ではない・・・・』
『はいはい、わかったよ。じゃわしはもう出るな。兄さんはゆっくり楽しむんじゃよ』

そしてそのおじいさんは出て行った。
湯船に残された宗介はお風呂につかっているからか
それともまた別のせいでか体全体が真っ赤に茹で上がっていた。





その会話を女湯で聞いていたかなめも同じように真っ赤に茹で上がっていた。
すると今度は女湯でおばさんがかなめに声をかけた。

『あんたの彼でしょ?今の会話の男の子』
『え・・・・あ・・・・・いや・・・・・・その・・・・・・』

かなめは違うと否定しようとしたが否定する前にまた話しかけられる。

『クスクス。いいわねぇー若いって。私もあんたぐらいの頃は
 彼氏と一緒に銭湯に来たわ。懐かしいこと思い出しちゃった』
『え・・・だからそれは・・・・・』
『いいの、いいの照れなくったって』
『だから、あいつは彼氏じゃ・・・・・・・』
『否定してもだめよ。一緒にこんなところへ来るぐらいなんだから』

おばさんは言い残すと自分はとっとと湯船からあがって行ってしまった。

 


  あぁ・・・・・せめて彼氏じゃないって否定させて欲しかった・・・・・




かなめは1人残されその場で呆然としてしまった。
男湯ではもちろんかなめとおばさんの会話を宗介は聞いていた。


二人は壁越しでしばらく動けずにいたのだった。








それからどれくらい経っただろう。
体も髪も洗い終えたかなめがやっとの思いで宗介に声をかけた。



「ソースケ・・・あたしあがるね。髪とか乾かすから先に帰っててくれていいから」
「あ・・・・あぁ。了解した」


さっきのあんな会話のせいで宗介もかなめもなぜか意識してしまっていた。






かなめは脱衣所に出るとサッと服に着替え髪を乾かし始めた。

さすがにこれほど長いと濡れたままではマンションに着くまでに風邪を引いてしまう。
しかしここではそんなに長くドライヤーを使うわけにはいかずとにかく軽く乾かし始めた。


乾かしている間、かなめはさっきの老人と宗介の会話を思い出していた。

何度か見たことのある宗介の体。
かといって上半身だけとか一部だけとかだが・・・・・。
確かに宗介の体は服の上から見てもわかるくらい無駄のない筋肉のつき方で引き締まっていていいと思う。
だといってその体に抱かれるとか抱かれないとか考えたことなど無かった。


そんなことを考えているとまた一気に顔が赤くなってしまった。


  ダメダメ、バカなこと考えちゃ
  あいつは犬なんだから


頭を左右に振り邪念を振り払うとかなめはまだ半乾きの髪を束ね銭湯から出て行った。



「寒い・・・・・」


銭湯を後に足早に歩き出したとの時背後に気配を感じた。
振り向くとそこには宗介がたっていた。


「ちょっと、ソースケ!あんたこんなところでなにしてるの」
「なにって君を待っていた」
「あのねぇー髪乾かすから先に帰っててっていったでしょ?なのにどうして」
「そんなの決まっているだろう。お風呂上りの女性を1人帰すわけにはいかない。
 それに、君にもしものことがあったら大変だからな」
「もしものことって大丈夫よ」
「いやわからん」
「んもーだったら待っているって言ってくれればよかったのに」
「それもそうなのだが――――――」

言って宗介はなぜか顔を赤く染める。
それはかなめにしかわからないくらいほんとにうっすらと。
その表情がかなめにはとてもかわいく見えた。

「もしかしてソースケさっきの会話気にしてる?」

すると宗介はうなずいた。

「だよね、気にならないのがおかしいよね。あたしもね気になっちゃって。
 だから先に帰ってって言っちゃったの。
 でも、結局こうなるんだったら気にしないでいればよかったね」

言ってかなめはクスクスと笑う。

「千鳥」
「なに?」
「こんな風に一緒に銭湯へ着たりするのは恋人同士じゃなきゃダメなのか?」
「そんなことはないでしょ。現にあたしとソースケは恋人同士じゃないし」

なんのためらいも無く返事を返すかなめに宗介は『そうだな』と少し寂しそうに返事をす。
そんな宗介の気持ちを知ってか知らずかかなめは言葉を続けた。

「でも―――――」
「でも?」
「っそ、でもあたしとソースケは普通の友達同士とかでもないでしょ?」

意味深に問いかけるかなめに宗介はその答えがなんなのかドキドキしていた。

「ねーソースケ。今晩、夕飯どうするの?」
「え!?夕飯か」

突然話を変えられ今度はわけがわからんという表情をする。

「夕飯は買いそびれた」
「っそ、じゃ冷蔵庫に白菜とかあったからお鍋にしよう。
 体もちょっと冷えてきちゃったし。あんたも食べて帰るでしょ?」
「え・・・っ、あぁ・・・・」
「じゃ、これ以上冷えないうちに帰るわよ。ほら、急いで走る走る」

かなめは宗介はその場に置いたまま走り出した。

「千鳥、ちょっと待ってくれ」
「嫌よ、早く来ないと部屋に入れてやんないわよ」
「それは困る」

そして宗介はあわててかなめを追いかける。




「千鳥」
「なに?」
「さっきの話の続きだが俺と君はどういう関係なんだ」
「聞きたい?」
「もちろんだ」

宗介はかなめの答えに期待を膨らます。

「聞いても後悔しない」
「もちろんだ」
「じゃ、教えてあげる。あたしとあんたはペットと飼い主よ」
「なに!?」
「優しい飼い主と、飼い主に忠実な犬よ」



   そう、あたしとそうすけはそういう関係。
   今はそれでいいじゃない。
   あせらなくったってまだまだいっぱい一緒にいれるんだから。



「飼い主とペット・・・・・・」


思わず宗介はその場に立ち止まってしまう。


「ちょっと何してんの。早く来ないと思うお鍋食べさせてあげないわよ」


確かにこの関係はそうかもしれない。


それでも今はこの関係もかなめと一緒にいれるならそれでもいいかと思う宗介だった。







だって、寒い冬でもかなめといるだけで暖かい気持ちのなれるのだから。











雪は止み空には雲ひとつ無い満点の星が光っていた。











Fin






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