夢と現実というものは、稀に判別のつかないときがある。
その曖昧な境界線。その処理方法は人によってまちまちだ。
自分で無理やり引いて納得しようとしたり、間違ったところに引いてしまったり。
まぁ・・・今回は、それで俺が救われたわけなのだが。
初夢
朝。
ベランダから、ほどよい朝日が差し込む。
宗介は少し唸り声をあげて、うっすら目を開けた。すると、起きて最初に見えるはずの低い天井がない。
(・・・なんてことだ)
ずきずきと痛む頭を押さえて、半身を起こす。
昨日瑞樹や恭子に『ジュース』を勧められおずおずと飲んでいたのだが、気がついたらこの有様である。
周りを見渡せば、例のクラスメイト三人が晴れ着を着たまま、そろって爆睡していた。
床に置かれたままのおせちやらスナック菓子やらに混じり、大量に転がったビールやチューハイの缶。
高校生の部屋にあるまじきアルコールの匂いが部屋に充満していて、宗介は顔をしかめた。
付けっぱなしのテレビを消すと、当たり前ではあるが部屋が突然静かになった。彼の耳に入るのは、彼女らの穏やかな寝息。
とりたてて彼を動揺させたのは――そう、彼女のそれなのだった。
視線を下に移すと、晴れ着の上にエプロンを着けたかなめがすうすうとを寝息をたてて寝ている。
ここはかなめの部屋だ。
昨夜――元旦の夜に彼女の家でちょっとしたパーティーが開かれたのだ。
そのメンバーはいつぞやに怪談をしたときと同じ、かなめ、恭子、瑞樹、宗介。
宗介は以前と同じく、三人のパーティーのゲストという形で来ていた。
それはさておき。
朝10時にもなるというのに、誰も起きる気配がない。
「千鳥」
他のメンバーに聞こえないよう、低めに声をかけてみた。反応はなかった。
「・・・千鳥」
かなめの身体を軽く揺すってみた。
彼女は少し身じろぎして、うわごとのように呟く。
「ん・・・ソースケのばか」
「何だと」
「変態。えっち。死んじゃえ」
「・・・・・・俺は変態ではない。えっちでもない」
「ソースケったら・・・やだ。恥ずかしいよ…もぉ」
「??」
彼女はふにゃっと顔を緩めて、寝返りを打った。
どんな夢を見ているのかは知らないが、なにやらかなめらしからぬ言動だ。
少し放っておくことにした。
(さて。・・・何をするか)
そう思った途端。
一時に眠っていた落ち着かない気分が、にわかに大きくなってきた。意思とは別に、自然と目線が下にいく。
仰向けになって寝転がったまま寝息をすうすうとたてる彼女は、こちらが不安になってくるほどに無防備だ。
ほんのりと赤みがかった白いかんばせに、桜色の唇。
心臓がばくん、とはねた。
ある、どうしようもないような欲求が彼の胸に押し寄せる。
(落ち着け・・・)
ダメだ。駄目だだめだダメだ。そんなことをしたら、それこそ俺が変態になってしまう!
だが、いや。しかし――
体の感覚がだんだん失せてきた。周囲の寝息など耳に入らない。自分の心臓の鼓動ばかりが頭に響く。
この奇妙な感覚。こんなものは、現実でありえない。
そうだ。おそらく、これは夢だ。夢に違いない。
彼は幼稚園児なみの言い訳で、自分に無理やり納得させた。
そして・・・・・宗介は、ある意味今までの人生最大の勇気をもってその行動に出たのだった。
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