女神様の発明 〜性転換薬編

作:アリマサ

トゥアハー・デ・ダナンの艦長室
そこで、艦長であるテッサは、白衣姿で研究にいそしんでいた

「できました!」
ごぽごぽと怪しい泡のたつ液体が入った試験管を高く上げ、勢いよく叫んだ
「これを、サガラさんに使えば……」

宗介とテッサの仲が、なかなか発展しない
恋人になるのは諦めたけれど、友達としてより親しい仲になりたいと思っている
だが、それすらも廃れてきていることに慌てたテッサは、その原因を考えてみた
その結果、軍曹と大佐の身分の差だけではなく、性別の違いもあるだろうという結論に導いたのだった
宗介は、女性に差別はしないが、深く関わるというものでもない。
自分から用事や頼みごとする相手は、大抵男性のだれかである
その割合で、クルツがほとんどだが、女性のマオに頼むこともある。だがそれは、専門性上のことだったりするし、なによりマオは気性が男性に近いからかもしれない
以上のことから、女性であるテッサでは、なかなか友達という点でも、深く打ち解けてくれないのが実情である
ただひとつ、千鳥かなめの例を除けばだが

「ですが、この薬なら」
テッサが高い知力を総合して発明したこの薬は、飲むだけで性転換させてしまうという効力を持っている
これを宗介に飲ませてしまえば、宗介も女性になり、女同士ということで、今よりも親しくなれるだろうと思ったのだ
はっきり言って、思考回路が矛盾しているが、宗介と千鳥の進展ぶりを感じて、慌てたテッサには、もうそんなことはどうでもよかった
「しかし、本当に完成させてしまうなんて、さすがわたしですね。うふふふふふ」

サガラさんを女性にしたら、なにをしようかしら?
女同士になれば、気兼ねなく一緒にショッピングに喜んでつき合ってくれるようになるだろうから、新作の洋服を選んで、お互いに「これ、似合いますー?」とか見てもらったり、休憩でアイスを買って、「そっちも味見させてー」って食べ合ったりできるんですよね
「楽しみです、うふふふふふ」

さて、この薬をどうやってサガラさんに飲ませるか
「やっぱりテレビドラマのように、コーヒーに混ぜて飲ませちゃいましょう」
テレビだと、毒殺に使うシーンなのだが、テッサは気にもとめずに、さっそくコーヒーを沸かした

数分して、コーヒーが沸くと、コーヒーカップを二つ用意して、それに注いだ
なぜ二つなのかというと、万が一、コーヒーを落としてしまって、失敗したときのための予備だった
そして次に、発明した薬をコーヒーの中に混ぜておく
「……味が変わってバレるかもしれませんね」
それなら、なにか別のを混ぜて、ごまかせばいい
「サトウでごまかせるかしら」
一杯入れておいたが、それだけではやはり不安だ
「五杯くらいでいいですね」
どばどばと、かなりの量のサトウが入れられて、その薬入りコーヒーは完成した

「さて、行きましょう」
おぼんに乗せて、コーヒーを宗介の元へ運ぼうと、艦長室を出る
すると、そこでマデューカスと出くわしてしまった
「おや、大佐殿」
「あ、マデューカスさん」
軽く会釈して、それだけで済ませようとしたが、マデューカスが、テッサの運んでいたコーヒーを手にとってしまった
「ありがとうございます、艦長。ちょうど、コーヒーを取ろうと思っていたのです」
と、そのコーヒーを口につけようとする
あわてて、テッサは早口で言った
「あの、それ、サガラさんに持っていくコーヒーなんですっ」
その言葉を聞くなり、マデューカスはくわっと目を光らせ、そのコーヒーをぐびーっと一気に飲み干してしまった
「あぁっ」

どうして忠告したのに、そんな行動に出たのか分からなかったが、これでコーヒーがひとつ無くなってしまった
「残念ですな。艦長の淹れたコーヒーを、サガラ軍曹は飲めなくなってしまってしまった」
だが、すぐに、うっと小さく呻いて、頭を押さえた
薬というより、サトウの入れ過ぎにやられたらしい

「ふう……ともあれ、これで失礼」
と、マデューカスはまた作業に戻ろうと、廊下の奥へ進んでいった
「あら?」
そろそろ、薬の効き目があらわれるはずなのに
マデューカスの容貌に、さしたる変化がない
「……失敗でしょうか」
もう少し、様子を見たほうがいいと判断したテッサは、とりあえずもう一つのコーヒーを艦長室の前に置いておいて、マデューカスの後を追うことにした

コツコツコツコツと、マデューカスは威厳を出した歩き方で、廊下を進んでいく
体格はまったく変わっていないし、顔の渋さも消えていない
「どういうことかしら」

その時、マデューカスの前を、相良宗介が通りかかった
するとマデューカスは、なぜか急に宗介を呼び止めた
「なにか?」
「軍曹! ここに入れ」
誰も使っていない部屋に入るように命じ、宗介はそれに従った
テッサは、その部屋のドアのカギ穴から、中の様子を伺ってみる

「それで、どうされましたか?」
改めて聞いた宗介に、いきなりマデューカスが、ぱふっとが抱きついた
「ちゅ、中尉殿っ! なにを……?」
「軍曹……。なぜか貴様の顔がたまらなく愛おしいぞ。ああ、いかん。もう、離れたくない……はふはふはふ」
鼻息荒く、ぎゅーっと、凄い力で抱きしめてくる
「ちゅ、中尉殿っ! アゴの骨が痛いです! 離してください!」
だが、そんな宗介の要請はあっさり却下され、その抱擁はずっと続いていた
「ど、どうだろう。わたしと、禁断の領域に乗り込んでくれないか」
「いけませんっ。許可もなしに……」
「許可ならわたしが出す! いいだろう?」
「あぁ……」

「…………」
カギ穴から覗いていたテッサは、この展開をどう受け止めるべきなのか、悩んでいた
「これは、どういうことでしょう?」
あの中佐の異常っぷりから、あの混入した薬のせいだというのは分かる
だが、あの薬は、単に性別を変換する効力ではなかったのだろうか
マデューカスは、これまで宗介のことを良く思ってはいなかった。それが、逆に好意を寄せるような、まったく逆の行動に出てしまっている
「別の反応が起きてるのかしら」

一方、引き剥がしにかかる宗介と、必死に抱きつくマデューカスの攻防はまだ続いていた
「お願いします! お離しになってください!」
力は宗介の方が上のようで、少しずつ引き剥がせてきている
すると、マデューカスは頬に赤みを増して、宗介を見据え、言った
「―― 好きだ!」
「――!!」
思いかげぬその告白に、宗介の目が大きく見開かれた

「なんてこと!」
そのやり取りをしっかりと覗き見していたテッサは、衝撃の告白に、思わず両手で口を覆った
落ち着くのよ、テッサ! これは薬のせいで、マデューカスさんは本気で言ってるわけじゃない!
そう思おうとしても、やはりインパクトが強くて、なかなかそれを頭から振り払えなかった
すると、その部屋の扉がバン! と開け放たれ、宗介が飛び出し、そのまま全力で逃げてしまった
「あ……」
マデューカスのことも気になるが、今は宗介を追わなくては
すぐにテッサも走り、宗介の後を追った

すると、すぐに宗介に追いついた
彼は、なにやら立ち止まって、カリーニンに手を差し伸べている
「申し訳ありません、少佐」
どうやら、走っている途中、カリーニンとぶつかってしまったようだ
「いや……」
宗介の手を借りて、起き上がり、宗介の顔を見たとたん、カリーニンの見る目が変わった
「……少佐?」
するとカリーニンは、宗介をぐっと引き寄せ、その胸に抱いた
「しょ、少佐?」
「おぉ、よしよし。わたしの胸に甘えるがいい」
よしよしと、宗介の頭をなでていくその光景は、まるで子供をあやすようだった
「ほーら、おじちゃんのおヒゲだよー」
白ヒゲを宗介の頬にスリスリと、こすりつける
「少佐まで、どうされたのですっ? ヒゲが痛いですっ! チクチクします!」

「ははあ、そういうことですか。やっぱり失敗だったみたいですね」
それを見ていたテッサが、ようやく理解できたことにうなずいた
どうしてカリーニンさんまでもがコーヒーを飲んだのか分からないが、あの厳しいカリーニンさんが、甘えさせる行為に出ている
あの薬は、性別を変換するのではなく、なにか宗介に対して、いろいろな心理状態を逆転させてしまうようだ
コーヒーか砂糖と混ぜたことによって、そういう別の化学反応が起きてしまい、本来の効果が別のものに変わってしまったのだろうか

実は、あのサトウで異常に甘ったるい香りが漏れ、隊員たちはコーヒーを避けていたが、味覚だけでなく嗅覚もオンチだったらしいカリーニンは、「美味そうなコーヒーだ」と、艦長室の前のコーヒーを頂いてしまったのだ
そういうわけで、カリーニンが思いっきり甘え声で宗介に囁いた
「軍曹。今夜は一緒に寝ようか」
「――!!」
肩にまわしてきたその手を宗介はばっと振り払いたかったが、相手が少佐だけあって、それはできなかった
「少佐。いったいどうされたのですか。こんなこと……」
「よしよし、バカな子ほどかわいいぞ」
相手にもされず、ただ頭をなでられる
「…………」
すると、カリーニンが宗介に提案した
「そうだ。今晩は、わたしの部屋でごちそうになっていくといい。またひとつ、わたしのレシピが増えたんだ」
それを聞くなり、宗介はついにその手を振り解いて、「失礼します」と言い残して走っていってしまった

すると、逃げた宗介めがけて、奥から走ってくる男が一人
それは、艦長室の前に置いてたことで、テッサが飲んだものと勘違いして、「関節キッスー」と、わずかにカリーニンが残していたコーヒーを、余すことなく飲み干したクルツだった
「ソースケっ。オレ……オレ……。たくさんの女に色目使ってたけどよ、やっぱオレはお前だけだぁっ!」
そう叫びながら、宗介に抱きつこうとした刹那、閃光が走った

バギィッ

大して身分に差のないクルツに対しては、容赦のない宗介の拳が、クルツを壁に叩きつけた
「おごぶっ」
背中から壁に激突し、クルツはそのままずるずると崩れ落ちた
「……よく分からんが、異常事態が起きてるようだな」
拳についた血を拭きとり、宗介はより警戒した目つきになって、自分の部屋へと向かっていった

「あーあ、これじゃもうだめですね」
あれだけ警戒されては、もう薬を飲ませるのは難しいだろう
遠くからずっと見ていたテッサは、この薬の使用をすっぱり諦めることにしたのだった



その後、宗介の部屋の一室にて

そこでは、マデューカスがそこに強引に押しかけ、宗介と向かいになって話し合っていた
「軍曹、わたしと結婚しよう」
「申し訳ありませんっ」
床におでこをすりつけるくらいに低くなって、土下座する宗介
「結婚しようと言っているのだ! 命令するぞ!」
「勘弁してください……」


そのやりとりは、薬の効き目が切れるまで続いたという

あいたたたたた





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