Happy to give



 

「うう、徹夜になっちゃったじゃないのよう。」

「……すまない(汗)」

 

かなめです。

訳あって徹夜明けです。この「バカ」と付き合ったせいです。

ちょっといい思いできたとは思ったんですが、このアンポンタンは雰囲気も減ったくれもなし。

おかげで台無しです……。

かなめです……って、あたしに某コメディアンの真似させないでよ!

もう、あのバカをハリセンで殴り飛ばしてやりたい気分だわ。(既に殴り飛ばしたけど。)

え?何でそんなに怒っているのかって?それは昨日、古典の勉強やっていたのよ……

 

 

「つれづれなるままに、日くらし、硯に向かいて……ってあるじゃない、ここは?」

「うーん、……わからん。」

「ふうっ、やっぱ難しい?ここは古典のパターンさえわかれば簡単に解けるわよ?」

 

私は宗介の宿題の手伝いをしていたの。完全に苦手意識がついてしまったのか宗介はなかなか理解できないみたい。

 

「だめだ、俺としたことが。」

「仕方ないわよ、誰にも得手不得手があるんだから。ちょっと休憩しようか。」

 

私はそういうと台所に紅茶入れに入った。時刻は10時を過ぎていた。好きなコメディアンが出ている番組を我慢しての古典の勉強。

たびたび宗介に古典を教えているせいか、前回の期末では普段より10点ほどアップした。

喜ぶべき副作用かもしれない。だけど、宗介は合格点ぎりぎりを低空飛行。教えている身にもなってみなさいよ。教えた甲斐がないじゃないの!

愚痴は一つや二つ軽く出てくるわけだけど、言ったところで宗介の古典の点数が上がる訳ないし。根気良く教えていくしかないのよね。

 

「どうする?あと3行あるけどやってしまう?」

「そうだな。このゲームをやってみたかったところだ。さっさと終わしてしまおう。」

 

宗介が取り出してきたのは『スコドローン・ファイターズ4』という戦闘機ゲーム。

はっきり言って私は興味ないジャンルなんだけど、大橋昭文さんという役者さんが声で出演しているというと聞いていて、ちょっと興味があるゲームだった。

 

「じゃぁ、とっととおわしちゃおうか。」

 

 

30分後、宗介がとんでもない訳し方をしたせいで爆笑してしまったが、何とか古典の宿題は終わった。

 

「千鳥、あれは恥ずかしかったぞ……」

「だって、あんな訳文は初めて見たわよ。何で幼児語が出てくるのよ。」

「……いや、普通に書き間違えたんだが(汗)」

 

まぁ、宗介が受け狙いで何かやらかしてくることはまずないから天然でやったんでしょうね。

 

「さて、プレイモジュールを起動してっと。」

 

起動画面が出てゲームがスタートする。

ゲームのOPがロックでやってくるとは。やるな、N○M○O。

 

「で、どこまで進んでいるの?」

「ステージ7だ。潜水空母を撃沈させるのが任務だ。」

「……まるでダーナを沈める気分ね。」

「……ああ。」

 

宗介が選んだ機体は日本空軍が装備しているF-2攻撃機。

まずは対艦ミサイルでバラストタンクの重要な部分を破壊、潜水できなくしてから攻撃

するんだけど、潜水空母っていったい何さ!F-35Cがたくさん出てくるなんて……!

なんだかんだ言いつつ撃沈に成功。

その後は順調に進んでいくんだけど、なんだか私もやってみたくなってきた。

 

「宗介、これって対戦モードあるの?」

「ああ、あるぞ。」

「……宗介、勝負よ!」

 

このときの出来心が思わぬ方向に行くなんて……このときの私には想像できなかった。

 

 

「このっ!このっ!あー!!宗介あんたなんで逃げるのよ!」

「俺がみすみす撃墜されると思うか?まだまだ未熟者だな。」

「なにおうっ?!って、あー!また地面に激突……」

 

追いかけることに夢中になって気がついたときには目の前に広がる赤茶けた大地。

またしてもやられたわ。

おかげさまで一方的にやられっぱなし。ミサイルで落とされること5回、地面に激突した

こと3回、正面衝突1回。

 

「少しは手加減してよぅ。」

「たとえゲームでも手加減はしない。勝ちたければやってみろ。」

「く、くそぅ。あんたの偉そうなその台詞、すげぇむかつく……」

 

コントローラーを握り締めつつ、私は必死になって宗介機を追いかけた。

 

 

深夜1時。

普通だったら寝てるはずだけど、まだゲームの真っ最中。明日は日曜日だからちょっと

ぐらい夜更かししても平気かな?

大分コツつかめたから、地面に激突することなく飛べる。

ただ、飛べるだけで敵機の機動についていけないのがすっごく悔しい。

また、宗介に撃墜されて初期画面に戻る。

 

「これで何回撃墜されたのかしら……」

「15回だな。これですべて帰還できていたら勲章ものだな。」

「……それって嫌味?」

「いや、全然。」

 

最近、会話の中に切れが入ってきた宗介。人間らしくなったのはいいけど……

 

「次は落としてやる!」

「前も言ってたよなそれ。」

 

うう、ハリセン準備すればよかった。

 

むきになってゲームに熱中していた私。

突然の停電にはすぐには反応できなかった。

 

「あれ?」

「停電だな。ラジオは…」

 

そう言って宗介は暗闇の中でラジオを探そうとした。

 

「懐中電灯は必要ない?」

「大丈夫だ……おわ?!」

 

私の足に引っかかってしまった宗介は私のほうに倒れこんできた。

 

 

「あいたたた……大丈夫?」

「あ、ああ、大丈夫だ……?!」

 

宗介が呻いて固まる。何事かと思ったが状況を理解した。

目の前に宗介の目があった。姿勢的にもかなりヤバイかも……

宗介を強制的に除けようかどうか正直迷った。滅多に無い良い雰囲気。

手を伸ばせば宗介を捕まえられる……でも恥ずかしい。

いつもだったら照れ隠しでハリセンを振り回せる、でもそうしたくなかった。

宗介も顔を真っ赤にして固まっている。どうすればいいのか迷っているみたい。

そこで私は決意した。おずおずと宗介の首に腕を回す。自然と体が密着する。

宗介の体は呪文でもかけられたみたいに硬かった。その緊張をほぐすように

背中をさすってみた。次第に緊張が解けていく宗介の体。ちょっと重いかも。

 

「宗介、ちょっと重い。」

「あ、ああ、すまない。」

 

そこで初めて宗介は上体を起こした。ついでに私も体を起こして宗介の肩に寄りかかる。

暗い部屋から月明かりに照らされた外を眺める。

いつも宗介と良い雰囲気で過ごせたら。私はそう願っていた。そうであって欲しかった。

 

「なぁ、千鳥。」

「ん?」

「屋上に行ってみないか?そろそろ夜明けだ。」

「うん。」

 

 

日が昇る時間が早くなったとは言ってもまだ少し寒い。

屋上に上るために階段の閉鎖された鉄格子を乗り越えて屋上への階段を上る。

やはり誰かが侵入したのだろう。あちこちに足跡が付いている。

東の空がだんだん明るくなってきた。雲の隙間から小さく太陽が出てきた。

宗介は私の肩を抱いて横に立っていた。そして私も宗介に甘えるように寄り添っていた。

 

「もう朝なのね……」

「ああ、今日は徹夜だったな。」

「まったく、あんたのせいだからねw」

「そういうな。さっきの千鳥は可愛かったぞ。」

 

あの、私は幻聴を聞いているのでしょうか?

この朴念仁からこの台詞?!

 

「あの時俺はどうすればいいのかわからなかったが、うん。千鳥の可愛い顔見れてよかった。」

「……あんた、本当に宗介?」

「何を言っている?俺は相良宗介だ。身分証明をでっかい声で諳んじてもいいのだぞ?」

「せんでいい!」

 

すぱーん!

 

やっちゃった。でもすっきりした……ハリセンが無いとやっぱ調子が出ないかもしれない。

 

 

結局一通り技を繰り出して宗介を沈黙させた。

さっきまで良い雰囲気だったのにぶち壊し。やっぱり素直にならないといけないかもしれない。

部屋まで宗介を連れ帰ったあと、眠気が襲ってきた。徹夜はするもんじゃないわ。

ソファで宗介を膝枕してやる。ひざの上で宗介は寝息を立てている。

あどけない寝顔を見てごめんねと私はつぶやいた。かがんで額にキスをすると私は

ソファの柔らかさに身をゆだねてまぶたを閉じたのだった。

 

Fin






▼ブラウザを閉じてお戻りください



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送