悲しくても 
つらくても 
寂しくても

どんな人でも幸せな気持ちに慣れる
笑顔になれる花火の夜が大好きだと言った
そんな君の笑顔をずっと見ていたいと心から思った
そんな夜だった。



『花火の夜』



「千鳥、明日日曜の夜なのだが時間はあるか?」
「明日?暇だけど・・・なに?」

宗介の問いかけにかなめは不思議そうな顔をして返事をした。

「少し俺に付き合って欲しいんだが。」

宗介はすこし照れくさそうに言った。

「別にいいけど。どこに行くの?」
「それは明日になったらわかる。」
「ふーーーん。まぁ、いいわ。ただしへんな所じゃないでしょうね?」
「あぁ。大丈夫だ安心しろ。では18時ごろ迎えに行く。」

かなめはわかったわっと返事をすると機嫌よく鼻歌を歌いだした。



          ◇◆◇◆◇◆◇



事の発端は今朝教室へ入ってからのことだった。
宗介が一人で席に座って雑誌を読んでいると恭子が声をかけてきた。

「ねぇーねぇー相良君。カナちゃん何か言ってなかった?」

いきなり聞かれて不思議そうな顔をする。

「いや別に何も言ってなかったが。」
「ほんと?明日がどーのとか花火がどーのとか言ってなかった?」
「あぁ。」

すると、恭子はやっぱりカナちゃんすっかり忘れているなっと独り言をいうと
いきなりポン!!っと手をたたきニヤリと笑うとまた宗介に話しだした。

「相良君は花火って見に行った事ある?」
「花火?」
「うん。夏になるといろんなところでやるんだけど・・・・」
「いや、ないが・・・・」

その言葉を聞くとしめしめっという表情をしながら恭子は言った。

「あのね、明日〇〇の河川敷で花火大会があるの。」
「〇〇の河川敷?また遠いところだな。」
「それでね、前にカナちゃんに誘われたんだけど私用事があって一緒に行けなくて。
そのままきっとカナちゃんも明日の花火大会のこと忘れてると思うんだ。」
「俺にどうしろと?」
「あのね、カナちゃんを誘ってあげてくれない?」
「俺がか?」
「うん。相良君行った事ないでしょ?花火大会なんて。」
「確かに行った事ないが・・・」
「じゃ、決まりね。でも、花火大会行くって誘っちゃダメだよ。行く場所は秘密で誘うんだよ。」
「了解した。しかし、なぜ花火大会へ行くと言ってはいけないんだ?」
「だって、言わない方がわかったとき嬉しいじゃない?」
「ふむ。そういうものか?」
「そう言うものなのよ。」
「了解した。それでは後で誘う事にしよう。」


っと言うわけだったのだ。




          ◇◆◇◆◇◆◇




当日、昼間猛暑だった事もあってか夕方になってもまだまだ暑かった。
宗介はかなめの部屋へと時間きっちりに迎えに行った。
玄関から出てきたかなめの姿はいつもとは少し違う
夏らしい涼しげなワンピース姿に髪を上へと器用に束ねていた。

「どうしたの?」

不思議そうな顔をしてみている宗介に問いかける。

「いや・・・その・・・・珍しいなと思ってな。」

かなめは一瞬なんの事を言っているのかわからなかったがすぐにピンときた。

「この姿のこと?」

宗介は「あぁ」っとだけつぶやく。

「昼間すごく暑かったでしょ?汗もかいたしシャワーしたから
 どうせなら涼しいカッコしようかな?って思って。どう?似合ってる???」

かなめは宗介の顔を覗きこむ。
すると宗介はかなめから目線をそらしそっけなく「あぁ。」っとだけ返事をした。
そんなそっけない返事でもかなめは嬉しかったらしく
「よし!」っと返事をすると「じゃ、行こっか。」っと宗介より先に歩き出したのだった。






「ところでどこへ行くの?」
「すぐにわかる。」
「すぐにって・・・・」

かなめは電車に乗せられても目的の場所を伝えられていなかった。
電車が都心から離れていくに連れてなぜか人が多くなっていく車内。
そのうち浴衣よ来た女の子が何人か乗っていたりもした。

電車は気がつけばある河の河川敷を走っていた。
そして、かなめはようやく気づいた。

「ソースケ?もしかして今から行くところって・・・・」
「やっと気づいたか。」

言われてかなめは驚く。

「な、なんで花火大会があることあんたが知ってるの?」
「あぁ、昨日な常盤に聞かされた。」

かなめはへ?っという顔をする。

「昨日の朝、教室で雑誌を読んでいたら常盤が俺のところに来て言った。
『明日、〇〇の河川敷で花火大会があるからカナちゃんを連れていってあげて』とな。
俺も花火大会など行った事がないし見てみたかったからな。」

そう言って宗介は電車のドアにもたれかかった。

すると、それと同時に『バン!!』っという音が耳に入ってきた。

「始まったんだ!!」

かなめはドアの窓に顔を近づけ外の様子を覗く。
すると夜空に大きな花火が広がりその姿を河に映し出していた。

「うわーーーーー。」

嬉しそうな声をあげる。
そんなかなめを宗介は黙って見つめていた。



花火大会をしている最寄の駅はそれからすぐに着いた。
駅の構内はすごい人だかりだった。


「なかなか前に進めないね。」

人ごみにもみくちゃにされながらかなめは行った。

「ふむ。こんなに混むのならもう少し早く出てこればよかったな。」
「そうだね。」

っとかなめが返事をした瞬間人ごみにさらわれ転びそうになった。

「きゃっ!!」

その瞬間宗介の手がかなめに伸びる。

「大丈夫か?」
「う・・・うん。」

もう少しで転びそうになる寸前のところで助けられかなめはほっとする。

「怪我はしていないか?」
「うん。もう少しで転ぶってところで助けてくれたから。」
「そうか。」

そして、宗介はかなめの腕を持ったまま辺りを見回す。
なんとかしてこの人ごみからはやく抜け出す方法を探した。
しかし、四方八方を人で埋め尽くされ人波に流れながら移動するしか方法がないとわかった宗介は
かなめの腕からいったん手を離すと今度はそのまま手をかなめの手へと繋げた。
力強く握り締められかなめはドキリとする。

「ソ・・・ソースケ?」
「なんだ?」
「手・・・手が・・・・」
「あぁ。しばらく手を繋いでいる方がいいだろう。
 この人ごみだ手を繋いでいる方が万が一人波にさらわれそうになっても大丈夫だ。
 それに、さっきみたいに転びそうになってもな。」
「そ・・・それはそうだけど・・・・」

宗介の言う事は最もだった。
しかし、かなめにしては非常に照れくさい、恥ずかしい事だった。

「で、でもさ、ソースケ。誰かに見られたりしたら誤解されないかな?」
「こんな人ごみの中でか?」
「うん。」
「大丈夫だろう。誰にも見つかりはしない。見つかったとしてもこの人ごみだ、手など見えない。
 それに、君と俺との間で誰も誤解などしないだろう。しているとしたらもうとっくにされているはずだ。」

確かにそうだった。
一緒に帰るし、お弁当だって作ってくる。夕飯だってよく一緒に食べる。
そんな事を考えたらもうすでにみんなに誤解されているだろう。
しかし、誰一人そんな誤解をしている友達はいない。それを考えるといまさら―――――なのだ。

「そうだね。」

返事をしながらもかなめは少し寂しかった。
こんな事を言っている宗介は自分のことを本当はどう思っているのだろう。
本当に護衛の対象としてしか見てくれていないのだろうか?
少しくらいは女の子として恋愛の対象者として見てはくれていないのだろうか?


  あたしはあんたの事がこんなに好きなのに・・・・・


そう思うと胸がキュっと痛くなったのだった。


しばらく手を繋いだまま歩いていた宗介とかなめだった。
徐々に人ごみは薄れていき普通に歩けるくらいの人ごみになっていく。

空にはもうすでに何発かの大輪の花が咲いている。
河沿いの土手にはところどころすでに見物の為に座っている人たちでいっぱいだった。



「ソースケ、どの辺で見る?」

繋がれたままの手を見ながらかなめは言った。

「こういうのはどの辺りで見るのが一番いいんだ?」

立ち止まる事無く宗介は歩き続ける。

「そうねぇー大きく見るのだったら開催されている会場のすぐ近くがいいんだろうけど今更行っても
すごい人できっともみくちゃにされそうだからこの辺でもいいと思うんだけど。」
「君はどこで見たい?」
「あたし?あたしは大きくも見たいけどでも、
 河に映る花火も見るのが好きだから両方ともが見える場所がいいかな?」

すると宗介はでは「この辺りがいいな」っと河川敷から少し高台になっているところまでかなめを連れて行った。

そこからは空に舞い上がる花火も河に映る花火もはっきりと見ることが出来た。

「あんた。よくこんなところ知ってたわね。」
「まぁーな。」
「もしかして・・・・・調べた?」

図星をつかれたのか宗介は少し困ったような顔をした。
そんな表情を見て「昨日の今日なのにあんたって人は・・・」っと心の中で思うと小さな声で
「ありがとう」っとつぶやいた。



「綺麗だね・・・・」

風が運んできる火薬の匂いを浴びながら舞い上がる花見を嬉しそうに見あげていた。

「あんたもなんとか言ったらどう?花火なんて見るの初めてでしょ?」

表情も変えずただ空を見上げている宗介に向かっていった。

「初めてだ。確かに綺麗だな。」

宗介は舞い上がる花火を見つめ言った。

「あたしね、花火って大好き。
舞い上がる花火を見ていると自分のちっぽけな考えもすべて吹っ飛んでしまう気がするの。
なんてちっぽけなことであたしはなやんでいるんだろって。
だから、どんな人でも幸せな気持ちに慣れる笑顔になれる花火の夜が大好き。」

そんな事を考えるとさっき思っていた小さな不安も一気に消えていくような気がした。
そういってかなめは満面の笑みを浮かべながら言った。


「連れてきてくれてありがとう。」

すると宗介は「うむ。」っとだけぶっきらぼうに返事をしたのだった。
そんな彼女の笑顔をみて宗介は思った。



  空に舞い上がる花火も河に映る花火もきれいだが君の笑顔が一番綺麗だと
  その笑顔を許される限りずっとみていたい・・・・っと。








(Fin)







画像提供>>ひまわりの小部屋http://www.aikis.or.jp/~himafp/



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