「ソースケ、ここよ。ひっそりと噂になってる、おいしい中華料理店って言うのは」

 とある日曜日、宗介はかなめの買い物に付き合って街に出ていた。
 多少のトラブル(宗介が銃を抜く等)もあったが、かなめのハリセンとごまかしによって事なきを得、
 いま宗介の両腕には一杯の紙袋が握られていた。

「……千鳥、張り切っているところをすまないが……」

 かなり重さがあるはずの荷物を事も無げに運びつつ、宗介はかなめに忠告するように言付ける。
 彼の視線の向きにかなめの目が照準を合わせた。

「ぬあにぃぃぃぃぃ!?」

 そして、色気など全くないような声音でかなめが上げたのはすっとんきょうな声。

 そう、入り口にはこうかかれてあったのだ、「本日定休日」と。

「あ〜ん。せっかく楽しみにしてたのにぃ〜」

 その非情な文字に対して、かなめはその場にへたり込むほどのダメージを受けているようだ。
 裏通りのほうではあるが、完全に人の目など気にしていない様子で入り口のドアにもたれかかっている。

「千鳥……か。どうしたんだ?」

 どうやら彼女を知る誰かがたまたま通りかかったようだ。はっきりいってこの状況は恥ずかしい外の何者でもない。
 宗介は全く役に立たないであろうし……。と、一瞬で腹をくくってかなめは声の主を振り返った。

 その場にいたのは確かに見知った顔。
 ただしその格好は買い物帰りの主婦と言うべきか、白い腰のみのエプロンに買い物袋を両手に抱えているという、実に珍しい姿であった。

「イッセーくん? そっちこそどうしたの、その格好?」

「どうしたのって……ここは俺が働いている中華料理店だぞ」

 その言葉で、へこみまくっていたかなめの顔に光がさしたように見えた。

 

「一成の御学友か。せっかくの機会だから食べて行けや」

 定休日にもかかわらず、店内には店長とおぼしき男がいた。本日はお店が休みなのを機会として、一成の料理の特訓をするとのことだ。

「いつもは、作ったものは俺が食べなきゃなんないから一、二品しか作れないけど……食べてくれるってんで存分に腕が振るえるぜ」

 嬉々として割烹着を着込み、厨房へと消えていく一成。

 肘を立ててその光景を見送って、かなめも嬉しそうに宗介へと視線を向けた。

「そう言えば忘れていたわ。イッセーくんと初めて会ったのって、この近くだった」

「……むう」

 そのセリフに宗介は真に面白くなさそうな表情になり、押し黙ってしまう。

 と言っても、宗介がしゃべらないのはいつものことなので、かなめは一方的に本日のお買い物についての話をしていた。

 そうこうしているうちに、店長が大きめの皿をいくつか持って現れる。
 青椒牛肉や麻姿豆腐などの、およそ一般的であるだろう料理が次々とテーブルに並べられた。

「うわぁ、おいしそうっ!」

 かなめは欠食児童のように目を輝かせ、次々と箸を伸ばしていく。宗介もそれなりに食べているようだ。
 多少しんなりしている野菜があったり、味付けが濃かったりした部分もあったが、おおむね満足できるものである。
 少なくともかなめの腕では出せない味ではあった。

 最後に杏仁豆腐を持ってきたのは店長ではなく一成だった。

「ど……どうだった?」

 やや緊張した面持ちでそう尋ねてくる。それに対してかなめは笑顔で答えた。

「うん、とてもおいしかった! ね、ソースケ?」

 宗介は相も変わらずぶすっとしていたが、そのままの表情で言う。

「俺はどんなにまずいものでも、ある程度は食べられる。戦場では栄養を取れるときに取っておかなければ即、死につながるからな……」

 ピクリと一成のこめかみに青筋が浮かぶ。

「てめぇ……それは俺の料理がまずいって遠まわしに言っているのかぁぁっ!」

 もとより仲の悪い二人である。わずかなきっかけがあればすぐにでも喧嘩に発展してしまう。いわゆる一触即発の間柄なのだ。

 もちろん今回も宗介の発言によって戦いのゴングが切って落とされようとしたが、一成の拳が振り下ろされるよりも早く、
 彼の頭上に別の拳が振り下ろされた。その強烈無比な一撃は店長が繰り出したものであった。

「半人前のくせにいっちょ前にうまいと言ってもらおうなんて思うんじゃねぇっ! 
せっかく食べてくださった御学友に、お礼を言いこそすれ反抗する権利は貴様には無いっ!」

 全く持ってその通りだった。まあ、原材料費だけという半額以下の値段で提供してもらっているのだから、
 正確にお客様扱いされていいものかどうか悩みどころではあるが……。

 案外ムキムキのボディを持つ店長に、一成は力なくうなだれて引きずられていく。

 その光景をしばらく見て、宗介はこう付け加えた。

「何を勘違いしたか知らんがな……俺はまずいとは一言も言っていないぞ。

 うまかった。ご馳走様だ。椿」

 そこまで言うと、荷物を持ってとっとと退店する。

 残されたかなめと、一成はその耳を疑うような言葉にぽかんとしていた。

 

「ねえ、宗介。なんでわざわざあんなこと付け加えたの?」

 かなめが店長といっせいにお礼を言ってお勘定をしてから店外に出ると、その場で宗介は待っていた。その帰り道のこと。

「む……何となく……だな」

 宗介の返答はそうであったが、実際のところはかなめが一成の料理で喜んでいるのを見て、「何となく(腹が立った)」という伏字が隠されている、

「何となく……ねえ。でもちゃんとおいしいってほめてたから、イッセーくんびっくりしてたよ」

「うまいものはうまい。そこを捻じ曲げてまでけなす理由は俺にはない。ただ……」

「ただ?」

 途中で言葉を切った宗介に対し、不思議そうな顔でかなめは彼の顔を覗き込む。

「……」

「……」

 数秒の沈黙。

「次は……千鳥の作った中華が食べてみたい」

「……えぇ!? わ……私の!?」

 宗介にとって見ればかなりの爆弾発言により、少々困惑の色を見せるかなめ。

「だめか?」

「……イッセーくんのようにはいかないわよ?」

「そんなものは問題外だ」

 はっきりと断言する宗介。

その後、宗介とかなめは途中の本屋に立ち寄り、料理の本を一冊購入した。

 

(終)









 

あとがき

こんにちは。もしくは始めまして。Yoshiと申します者です。

今回のテーマが「食べ物」と言うことで、小生の脳内には真っ先にあの魅惑の赤いスープがよぎりました。

むしろクロギュさんはそこを狙っているのかと勘ぐるほどでした。

しかし、今までの落ちでかなりの頻度の使用をしておりますので、今回はあえて使いませんでした。

微妙にソーカナ風味ですが、いかがだったでしょう?

この話を書くにあたって今更ながら、一成君が中華料理屋でバイトしていることを思い出しました。

結構忘れている方も多いのではないでしょうか?

ええと。それでは読んでくれた皆様ありがとうございました。またお会いする日が来るまで。




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