*このお話はDBDのその後という設定で原作のVMC、OMO、OMFとはズレが生じています…
『 雨と涙 』
さんざんな事件があってからすでに八ヶ月…。色々な事があったとはいえ、
今では大分落ち着きを取り戻していたかなめ。さすがに八ヶ月も経てばというところだろうか……。
それでも何かがきっかけで思い出してしまう事もある。
かなめの場合それが雨という天気だ。だから今年の梅雨はとても憂鬱場日々が続くであろう。
辛い事、嫌な事全部が……忘れたくても忘れられない事が…。
しかしそれで落ち込んだままでいるかなめではない。
もちろん初めのうちは思い出してはへこみ、一人勝手に八つ当たりやら切れていたりもしたが…
今ではそんな事もなくなっていた。
「千鳥?」
ある雨の日、食料が尽きたからと買い物に行こうとしていた宗介の元にかなめがやってきた。
「出かけるの?」
「ああ。食料の買い出しに行こうとしていたところだ」
「ふーん…一緒に行ってもいい?」
「構わないが…」
すでに支度を整えていた宗介と、その宗介の部屋に訪ねてきたかなめ。
訪ねてきた早々…二人はさっそく近くのスーパーへと赴いた。
東京地方はすっかり梅雨入りしたせいで今日は見事なまでの雨が降っている。
はっきり言ってこんな日に出かけたいと思う者は少ないだろう。ただでさえ休日なのだ。
もっとも、宗介のようにやむを得ない場合は仕方がないのだが…。
「千鳥…どこかに行きたいのではなかったのか?」
「別にそんな事ないけど…何で?」
かなめが宗介の部屋を訪れた時…かなめの格好はレインコートに長靴である。
これは雨の日に外へ出かけるスタイルだ。
ただ単に宗介の部屋に遊びに来たのであればここまではしないだろう。
そのかなめの姿を見たのだから、
これでどこかに出かける予定があるわけではないと言われて信じられるはずがない。
「まあ、強いて言うなら散歩に行きたかったかも」
「……………この天気でか」
散歩日和…とはとても言えない今日の天気。何か理由でもあるのだろうか…。
そう思うしかなかった。
以前にもかなめは宗介を散歩に誘った事がある。
休日で時間があった宗介はもちろんその誘いを受けた。まあ理由の大半が護衛のためであろう。
夏ももうすぐ終わろうという季節に…暑さも和らいだ夕暮れ時に二人して歩いた。
ひぐらしが鳴く街並で…始終かなめが楽しそうにおしゃべりをしていたのだが……。
今はどうだろうか。
雨のせいでお互い傘をさし、道によっては二人並んで歩けないという事もあったが…
それを差し引いてもかなめがここまでしゃべらないのは、どこかおかしいのでは…と宗介にも分かる。
「ねえ、川原行こう」
いくらなんでも聞かないわけにもいかない…と宗介が声をかけようとした瞬間、
先に口を開かれた。仕方ないので買い物を後回しにして希望通り川原に行く事にした。
すぐ近くの多摩川はこの大雨のせいでかなり増水していた。
それでもこれ以上近づかなければ特に危険もないだろうと宗介が一応の警戒をしていると、
突然目の前に閉じられた傘が差し出された。
思わずそれを受け取ってしまう宗介。
慌ててかなめの顔を見ようとしたら本人はずんずんと川の方に歩いていってしまった。
「ち、千鳥!? 待て、これ以上近づくのは危険だ」
だがかなめは止まらない。
「それよりもなぜ傘をささないんだ…風邪を引くぞ!」
レインコートにはフードも付いていたのだがそれも被ってはいない。
むしろそれすらも脱いでしまった。いくら夏とはいえこの大雨…風邪を引いてもおかしくはない。
しかしかなめは傘はいらないときっぱりと言った。
ようやく立ち止まったかなめは、真っ黒な雲で覆われている空を仰ぎ見た。
痛いくらいの雨粒がかなめの頬を叩く。
「え、ちょ…いた…」
数分もしないうちにかなめは強い力で腕を引っ張られた。
当然引っ張った相手が誰なのだか分かっているのだから驚きはしなかったものの、
めずらしくあまりにも乱暴で…その事に驚いていた。
無理矢理傘を持たされずんずんと今来た道を戻り…宗介の部屋にたどり着くと、
宗介は有無を言わさずにかなめをバスルームへと連れ込んだ。
「あつ……」
シャワーの始めの熱い湯を避けようとするが、宗介がそれを許さなかった。
次第に適度な温度になったところで手を離す。
「君が何も考えずにこんな無謀な事をするとは思っていないし…話したくないのなら理由も無理には聞きはしない」
「ソースケ……」
「だが、辛くなったのなら俺も話を聞く事ぐらいは出来る。まずは身体を温めてくれ……」
それだけ言うと宗介は出て行った。
シャワー降りそそぐバスルームには…先ほどの冷たい雨とは違う温かいお湯で
全身をぬらしているかなめが取り残される。
その頬に涙のような筋も流れたが…それが本当に涙だったのかは分からない……………。
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