電話
プルルルルル。プルルルルル。
…五回。
六回。
七回。
八回。
『現在、おかけになった電話は――』
いつもどおり、得体の知れない無機質な機械音声のあと、今夜何回目ともしれないビープ音を聴く。
力なく、かなめは受話器を置いた。
常ならば、こうもしつこく電話することはないかなめだったが今回ばかりはそうもいかない。
悪夢を見た。
いつもどおりアイツが戦場に行って、
あたしは一人で待っていて。
その後は――思い出したくない。
それは、今の状況が殆ど同じなだけ、あまりに現実味を帯びていた。
かなめの胸は、ひどく締め付けられた。はっきり言って、寝るどころではなかった。
「ソースケ。なんで出ないの…?」
今日は、なぜだか後ろ向きなことばかり浮かんでくる。
胸の穴をどうにか押さえたくて、かなめはクッションをきつく抱きしめた。
***
悪夢を見た。
ああ、はっきりいって最悪だ。もう見たくもない。
奴からの電話だった。
プルルルル、プルルルル。
『ハァハァハァハァ…あいしてるぜカシム』
プルルルルル、プルルルルル。
『ハァハァ。あいしてるぜカシ』
プルルルル。
『ハァハァハァハァハァ。あいしてるぜカ…』
「しつこいんだよクソ野郎!!」
ガタン
突然身を起こし肩で息をする宗介に、二人の同僚は目を丸くした。
「いきなりどーしたよ、ソースケ。らしくねえな」
「汗だくよ。どんな夢見たの?せっかく帰還中だってのに」
「…いや……」
夢の中でかかってきた電話。
今思い出しても身の毛のよだつほどの恐ろしさだ――
寧ろ腹が立つ。何故だかひどく腹が立つ。
プルルルル、プルルルル。
「っ!!?」
手元の携帯が突然震えだしたことに、彼は戦慄した。
そして、思わず――
***
「ケータイぶん投げて壊してしまった、と」
「…すまない」
「あんたね、いくら怖い夢見たからってそれはないんじゃないの?」
「その通りだ…と思う」
「どんな夢見てたの?」
「……」
情けなさ過ぎて言えない。
「…ったく。あたしがどんなに――」
「どんなに?」
(心配してたかわかってんの?)
(あたしだって、ほんとに怖い夢みたのよ。)
(ほんとに怖かった。早く会いたかった。)
「あーあ。なんだかなあ」
恥ずかし過ぎて言えない。
目の前に、コイツがきょとんとして立っているのを見てると……
なんだか、自分の考えがとてつもなくバカだった気がして。
end
半端だけど。
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